「1人1台端末環境下における学校現場の管理職に求められる役割」日本学校視聴覚教育連盟常任参与 木村 和夫

2021年3月に文科省より発表された、「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備の進捗状況について(速報値)」によると、全自治体等のうち97.6%が、20年度内に児童生徒の手元に端末が渡り、インターネットの整備を含めて学校での利用が可能となる状態になる、と報告されています。いよいよ本格的にGIGAスクールがスタートし、多様な子供たち一人一人に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境が実現されることが期待されています。

しかし、現場は全ての児童生徒が1人1台端末を活用できるようにするために、数値には表れないさまざまな課題に直面しています。ハードル走にたとえれば、各教員がスタートラインに連れてこられたものの、目の前には高いハードルが何台もあり、困惑しているようなものだとも考えられます。このようなときは、まず全ての教員がスタートを切れるように、ハードルを下げ背中を押すことが必要です。

配備された端末の山を見て管理職がため息をついているようでは、教員も不安です。まず管理職が、配備された端末を率先して触ってみて、その姿を積極的に教員に見せることが大切です。例えば、会議の資料を各教員の端末に配布する、など簡単なことで十分です。このとき、全てを管理職1人で準備するのではなく、ICTが得意な教員やICT支援員、地教委などに相談しながら進めると良いでしょう。1人で抱えるのではなく、さまざまな人材を利用する様子を見せることは、教員の安心感につながります。自らハードルを下げて楽しそうに走ってみせることで、自分も走ってみようかなと思わせることが重要です。

生徒用電源保管庫の鍵。生徒がいるときは鍵がないことが理想

ゴールイメージの共有も大切です。今までは、教師が授業の中で端末を使う場面や使い方を決めることがほとんどでした。教員には、良い授業をしたいという思いがあります。1人1台端末を活用するからには効果的に使わなければならないというプレッシャーもあります。しかし、1人1台端末の環境では、学びが大きく変わります。「教育の情報化の手引」の中で、「鉛筆やノート等の文房具と同様に不可欠なものとなっていることを強く認識し……」と書かれているように、児童生徒が主体的・日常的に端末を活用することが期待されています。

そこで、「登校したら朝の時間に必ず端末の電源を入れる」「先生がいるときは、中休みに端末を使って良い」などの簡単なルールを決め、児童生徒が端末に触れる機会を確保することも考えられます。児童生徒が端末の操作に慣れることは、授業で端末を活用するハードルを下げることにもなります。まず、実際にスタートを切ってみましょう。

児童生徒が端末を使う時間が増えると、操作スキルは上達しますが、「写真を勝手に撮られた」「グループワークに入れてもらえなかった」のようなトラブルが必ず起こります。学校はトラブルを嫌いますから、先回りして詳細なルールをつくりたくなります。しかし、「これはだめ」「あれもだめ」では、せっかくスタートしようとしても意欲が下がってしまいます。個人情報の流出など、取り返しの付かないものは避けなければなりませんが、小さなトラブルはつき物であると覚悟する必要があります。かえって、情報活用能力(情報モラルを含む)を向上させるためのチャンスです。トラブルをいかに生かすかを考えさせることが重要です。

ほとんどの管理職や教員にとって、1人1台端末の環境は初めての経験です。思わぬ活用法やトラブルも数多く出てくることでしょう。海外では、小学生が自分のスマホなどを普通に学校に持ち込み、活用している国も多くあります。日本とは状況が違うでしょうが、おそらく導入当初にはさまざまな課題があったことと思います。最初から成果を出そうとか、トラブルがないようにと構えると、1人1台端末の活用は進みません。管理職は、あまり細かいことに口出しせずに教員や児童生徒に任せて、活用法やトラブルが学校全体で共有されるようにすることが重要です。たとえハードルを倒しても記録が悪くても、そのことをとがめるのではなく、互いに走るところを見せ合い、どうすれば改善できるか知恵を出し合う、だれもが気軽に再挑戦できる、そのような風通しの良い学校をつくることが、管理職の役割だと思います。

(元東京都公立小学校長)

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