HACCPを踏まえた学校給食衛生管理 食中毒による健康被害防止のために

(一財)東京顕微鏡院 名誉所長 伊藤 武

学校給食の衛生管理は1996年に制定され、2009年に改定された「学校給食衛生管理基準」に従って実施された結果、学校給食を原因とする食中毒は著しく減少してきましたが、毎年数件の発生があり、さらなる給食の衛生管理の充実が求められています。

食中毒による健康被害防止のためには国際基準であるHACCP(ハサップ)システムによる新たな衛生管理が今年の6月から施行され、全ての食品事業者は食品衛生法によるHACCPを導入しなければならなくなりました。営業ではない学校給食も例外ではなく、HACCPの考え方を取り入れて衛生管理を推進していくことになります。

ところで、「学校給食衛生管理基準」とHACCPシステムとは異なった衛生管理でしょうか。「基準」の総則にはHACCPの考え方に基づき単独調理場、共同調理場の施設・設備、食品の取り扱い、調理作業、衛生管理体制などを実施し、問題がある場合には速やかに改善措置を図ることとなっており、「基準」はまさしくHACCPの考え方による衛生管理です。

HACCPとは特殊な衛生管理ではなく従来から実施している衛生管理をより理論的に整理し、食品に潜む危害要因(人に健康被害を及ぼすハザード)を明確にし、重要な衛生管理の工程で、危害要因を除去あるいは低減化するシステムです。HACCPの要求事項と「学校給食衛生管理基準」との関係は次のようになります。

①調理には煮る、蒸す、焼く、揚げるなどの加熱があり、食材を食べやすく、おいしくする工程です。加熱に弱い食中毒微生物(生物的危害要因)を死滅させる重要な工程であり、HACCPでは重要管理点と定めています。病原菌が死滅あるいは低減化したことを証明するためには必ず中心温度計で加熱温度を測定し、75℃、1分以上の加熱温度を確認、記録をします。また、あえ物などは保管中に病原菌の増殖を阻止するために加熱後に冷却します。冷却工程も重要管理点であるので、冷却温度とその記録が要求されます。

②2時間以内の給食の提供は食中毒菌が増殖しない時間帯であるし、前日調理の禁止は加熱でも死滅しないウェルシュ菌の増殖防止対策であり、重要管理点と考えられます。

③ジャガイモの芽などの除去は化学的食中毒の原因となるソラニン(化学的危害)対策であります。

④3槽シンクによる野菜などの洗浄は小石など(物理的危害)の排除であります。

⑤包丁の刃こぼれ、調理機器の金属類は目視により確認し、記録することが物理的危害(金属類など)の除去となります。

⑥使用水は調理前後に遊離残留塩素が1ppm/L以上であることを確認します。これは使用水の安全性(病原微生物の死滅)を証明する重要な手段です。

「基準」では危害要因の解析は明確にはなされていませんが、危害要因の除去を明確にするために、調理工程表には加熱・冷却工程が明記されています。

ところでHACCPのみで人への危害は除去できるでしょうか。原材料に危害要因が存在すると作業環境が汚染され、予期されない危害要因の拡大となります。調理作業環境が衛生的でないと環境から危害要因の汚染が起こります。これらの二次汚染防止対策はHACCP以外に「一般衛生管理」を構築しなければなりません。

「基準」に示されている調理室の作業区分(汚染作業区域、非汚染作業区域)、履物、エプロン、調理器具などの区分け、ドライ調理場ないしドライ運用、60cm以上の台、手指の洗浄・消毒、野菜などの洗浄、果物の洗浄・消毒、調理機器・器具の洗浄・消毒、使用水の残留塩素の測定などは「一般衛生管理」です。

調理工程表には重要管理点と工程ごとに必要な一般衛生管理も記載されていますし、作業区域と作業時間も明記されています。また、調理従事者を介して食品に病原微生物を汚染させないために、ノロウイルス、サルモネラや腸管出血性大腸菌O157などの腸管系病原菌の保菌者検査が「基準」により義務化されています。

毎日作成している調理作業工程表は、調理従事者の役割分担や手指の洗浄・消毒、手袋の着用、エプロンや履物の替え、加熱・冷却工程などの温度管理(重要衛生管理点)などHACCPの要求事項と重要な一般衛生管理が明記され、調理従事者が必ず守らなくてはならない衛生管理表です。

「学校給食の衛生管理基準」は安全・安心な給食の提供のためにもう一度HACCPの視点から見直してください。「基準」を遵守することは大切ですが、HACCPの衛生管理を踏まえて新たな衛生管理を構築し、地産地消の食材の活用やコロッケなど手作りのおいしい給食を提供することも大切であると考えます。


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