(鉄筆)文藝春秋9月特別号には「戦争を知らない…

文藝春秋9月特別号には「戦争を知らない世代に告ぐ—戦前生まれ115人から日本への遺言」と題する‘超大型企画,が組まれている。

各界で活躍する著名人が、日本の未来を憂う苦言、提言、諫言かんげんを率直に披歴している。耳を傾けるべき内容にあふれている。この中からあえて1人を選ぶとすれば、数学者で作家の藤原正彦氏の「『たかが経済』を合言葉に」を挙げたい。

同氏は冒頭、明治時代に日本で暮らした動物学者エドワード・モースの言葉にふれる。「美徳や品性を、日本人は生まれながらに持っているらしい」。モースは日本人の道徳心に驚き、賞賛した。「この鋭い感受性と道徳心こそが日本の国柄であり、それを支えるのが国語である」と藤原氏は断言する。

例えば、「雨」という言葉ひとつとっても、五月雨、小糠雨、時雨など400もの語彙があり、日本人は情景によって使い分けてきた。道徳心は、みみっちい、せこい、さもしいなど、美的感覚を求める言葉で表現してきたという。

その上で「国語にとって最大の敵は経済。金銭から最も遠い国だったはずの日本が経済的利益を一目散に追い求めた結果、豊かな語彙や情緒は傷つけられ、醜い人間も増加した」「経済一辺倒になっていく日本は、敗戦前夜にも似た存亡の危機にある。必要なのは、『たかが経済』を合言葉に国語を大切にし、国柄を保つことだ。日本人自身が、日本の国柄のもつ普遍的価値に目覚めるほかはない」と指摘する。次期学習指導要領に向けた審議が、大詰めを迎えた。至言として受け止めたい。

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