教員採用試験の教職教養で鬼門と言われる「教育時事」。
問題集や参考書のみで対策するのは非常に難しく、「どの資料」の「どの部分」が出るか、という検討をつけること自体に苦労している方も多いはず。
そこで、月刊『教員養成セミナー』前編集長で教育ジャーナリストの佐藤明彦氏が、独自に収集した膨大なデータから2019年実施試験を分析し、2020年実施教員採用試験の傾向と要注意なテーマを予測します。
難解な教育時事をどう攻略するか
教職教養の中でも、最も対策が難しい領域が「教育時事」です。中央教育審議会の答申や文部科学省の通知などは内容が難解な上に、新しいものが次々と出てくるからです。加えて、問題集や参考書等にもほとんど載っておらず、「どの資料」の「どの部分」が出るか検討をつけるのは非常に困難です。
教育時事で扱われる答申・資料等は実に幅広く、2019年度実施試験では68種類、2020年度実施試験では80種類にも上りました(筆者調べ)。その約半数は、出題が1自治体のみというマイナーな資料です。教育時事対策がいかに難しいかがお分かりいただけるかと思います。
「的を絞って」対策
推奨しているのは、ある程度「的を絞って」対策することです。数ある資料の中から10~15程度にターゲットを定め、よく問われる内容・用語だけを徹底的に覚えていくのです。
試験本番では必ずしもそれら10~15の資料から出されるとは限りません。しかし試験対策本番までの時間は限られています。出題範囲が広大な教育時事対策に労力を使いすぎると、他の部分が疎かになりかねません。
2019年教員採用試験 教育時事の出題数ランキング
資料別の出題数ランキングをまとめると以下のようになります(資料名をクリックすると資料提供元にアクセスできます)。
教育時事の出題状況一覧(資料別)
全国の自治体でどのテーマ・資料が出題されているのか、一目で分かります。受験する自治体で何が出ているのか確認しましょう。
よく出るもの、出題が増えているものは
最頻出は「中央教育審議会の答申」
2018年、2019年ともに、1位は2016年12月に出された中央教育審議会の答申(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(2016年12月))です。2018年は実に23自治体が出題するなど、他を圧倒的に引き離して1位となっています。これほど頻出する理由は、この答申が新学習指導要領の基となった答申だからです。2017年に告示された小中学校の学習指導要領も、2018年に告示された高等学校の学習指導要領も、全てこの答申をベースに作られています。2020年も引き続き、要チェック答申と言えるでしょう。
「第3期教育振興基本計画」「いじめの防止等のための基本的な方針」など
2019年で2位となった「第3期教育振興基本計画」は、2018年度にランクアップしました。この計画は2018年6月に出されたもので、2018年実施試験の出題には、厳しいスケジュールであったからです。教育振興基本計画は「第2期」の頃からよく出題されているので、2020年以降も多くの自治体が出題してくることでしょう。
2018年は2位、2019年は5位の「いじめの防止等のための基本的な方針」は、2017年3月に一部改定となったこともあり、多くの自治体が出題しています。2020年も引き続き押さえておく必要がある資料です。
2018年は2位、2019年は3位の「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]」は、関西以西での出題が目立ちます。
「特別支援教育の推進について(通知)」「発達障害のガイドライン」
2018年は5位、2019年は3位の「特別支援教育の推進について(通知)」は、10年以上前の資料ですが、今なお多くの自治体が出題しています。発達障害への対応など、特別支援教育が校種を問わない課題となっているからです。同様の理由で、2017年3月に出された発達障害のガイドラインも、2018年4位、2019年7位と上位に入っています。
「働き方改革」「インクルーシブ教育システム」「教員の資質能力の向上」
2019年6位の中央教育審議会の答申(「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」(2019年1月))は、いわゆる「働き方改革」に関する答申です。この答申は2019年1月に出されたもので、2019年夏の試験で7つの自治体が出題しました。2020年はさらに多くの自治体が出題してくる可能性があります。
その他では、2019年の7位の中央教育審議会の「インクルーシブ教育システム」の報告、2019年の10位の中央教育審議会の「教員の資質能力の向上」の答申などが、要チェック資料と言えるでしょう。
2020年実施試験で初出題が予想される資料
中教審「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」
教育時事の対策を困難にさせる理由の一つは、過去に出題されたことのない新しい資料から出題される可能性があることです。2019年実施試験では、「働き方改革」に関する中央教育審議会の答申が、初出題にもかかわらず5位(7自治体が出題)となりました。
2020年実施試験から出題が予想される資料の中で、最も要注意なものは2019年1月に出された中央教育審議会「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」です。さらにこの報告についての通知(小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知))が同年3月に出されており、こちらも注意が必要です。
この報告により、これまでは4観点だった評価規準が「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に整理されるなど、学習評価の在り方は大きく様変わりしました。導入は新学習指導要領と同じ時期で、2020年度実施試験の小・中の受験者は、合格すればこの報告の方針に基づいて学習評価をしていくことになります。その意味でも、出題される可能性は高い資料と言えるでしょう。
中教審「新しい時代の初等中等教育の在り方 論点取りまとめ」
2019年12月に出された中央教育審議会の「新しい時代の初等中等教育の在り方 論点取りまとめ」も要チェックです。この答申は、「小学校高学年における教科担任制の導入」「児童生徒1人1台のコンピュータの実現」など、話題性のあるテーマが含まれているからです。
合格者に、試験対策をいつごろスタートしたかを聞くと、「試験前年の10月ごろ」と言う人もいれば、「年明けごろ」と言う人もいます。中には、「直前の4月ごろ」という強者もいますが、これはやや例外的で、確実に合格を勝ち取りたいのであれば、前年の秋ごろには着手した方がよいでしょう。最初にすべきは試験内容の確認です。教員採用試験は自治体単位で行われ、試験内容も自治体ごとに異なります。まずは募集要項を見て、筆記試験、面接試験、論文試験、実技試験などの中から、自分が何を受けなければならないか確認しましょう。