先を生きる 「教えない授業」で力を育む 大学入試にも有効 

ジャーナル山本一人の教師が踏み出す一歩とは
東京都立武蔵高校附属中学校 山本崇雄 教諭

山本崇雄東京都立武蔵高校附属中学校教諭は、「教えない授業」で、生徒が主体的に学ぶ力を育んでいる。同校は中高一貫校。6年間の体系的な教育課程の中で、同教諭は英語教諭として、大学入試にも成果を上げ、全国から見学者が訪れるほどだ。著書『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)が海外でも出版されるなど、その手腕と視点は、国内外から高く評価されている。「学びの手段を増やしていく」のが、取り組みのキーワード。こうした実践にたどり着くまでの道のりに迫り、教師が踏み出す一歩を探った――。

大学入試にも有効な理由
――「教えない授業」は、なぜ大学入試にも成果を上げているのでしょうか。

「教えない授業」を受けた生徒たちの模試やセンター試験の平均点が上がり、成績不振者が少なくなりました。センター試験(英語)の得点率が約9割の生徒もいます。

理由の1つは、大学入試がゴールだと生徒たちが考えていなかったからです。大学入試は通過点で、例えば英語を使って社会に貢献したいとの思いがある生徒にとって、大学入試は夢の実現と比べて、とても易しいものだと気付きます。

大学入試の問題でも、社会につなげる視点が大事です。英語であれば、社会で英語を使う状況と関連付けられます。「入試英語は使えない英語」との指摘がありますが、文法や単語が間違っているわけではありません。多様な問われ方に出合えます。入試の勉強は決して無駄ではありません。

ただ、生徒たちが混乱しないように、足並みを揃えるのが大事です。

文法の解説も子供がワークシートを作る
文法の解説も子供がワークシートを作る
学びの手段を増やしていく
――「教えない授業」とは、具体的には。

1つの問題解決の手段を一斉に教えるのではなく、経験した豊富な解決手段の中から生徒が自律的に選び、協働して目標を達成する授業です。▽分からない英単語を辞書で調べる▽教科書などの文法解説をまとめながら、知らない文法を自ら自由にまとめる▽長文を分担して読み進める▽絵に描いて理解する――などの活動を経験させ、問題解決のさまざまな手段を習得させます。それらを経験したら、どれを使うかは生徒一人一人に任せ、共有された「問い」に答えるための活動を支援していきます。

「〇時までに〇ページの絵を英語で説明できるように練習しなさい」と目標を示し、グループかペアか個人かの進め方を生徒自身に決めさせます。後は、▽例示した絵を描く▽教師と練習する▽スマホで音声を聞くなどの活動を参考に、進めていきます。

全員で目標を共有するための「問い」を立てるのがポイントです。日本の文化についてのレッスン事例では、「あなたの伝えたい日本の文化は何ですか」との問いです。それに答えるのが目標になります。

すると、それについてスピーチする目標が生まれ、どう要約すればいいかなどの小さな問いも生まれ、新たな学びにつながります。経験した豊富な問題解決の手段が、学びの手段となるのです。

選ぶ経験が圧倒的に少ない
――「教えない授業」のねらいは。

社会に出ても、学ぶ力を持続可能に自ら育てるのが狙いです。今の生徒たちには、自分で選んで何かをする経験が、圧倒的に少ないと思います。

だから、いざ社会に出たときに、自分の道の選び方が分からない。その原因の1つは、与え過ぎだと思います。今の子供たちには、決められた課題などが次々に与えられ、正しいとされる同じ方法でこなしていく動きが求められています。

――学習塾などに行っている生徒は、答えをすでに知っている場合があります。その場合は。

学習塾に行っているほとんどの生徒は、理解している内容をアウトプットする経験が少ない。答えのない問いにどう立ち向かえばいいのかも分かっていません。私の授業では、そのような生徒も、他の生徒にできる手伝いはないか、理解できていない生徒に、どうすれば分かってもらえるかといった問いに直面し、学びを深めています。

レッスンで学んだ内容を絵に
レッスンで学んだ内容を絵に
「大学は物足りない」と話す教え子も
――入試の話に戻りますが、勉強はどのように。

私の授業では、生徒同士が過去問を教え合います。自分のための勉強だけでなく、そこに誰かのためという要素が入ると、理解がさらに深まります。そのとき教師は、周りで見て一緒に学んでいます。ネイティブの先生も「すごいね」と驚いていました。

――自分の将来や誰かのためにと考えると、入試の勉強にも主体的に取り組めると。

そうです。私は「必ずしも大学に行かなければならないわけではない」とも言っています。大学で学ぶのは、人によっては今ではないかもしれないし、他の手段かもしれない。働いて大学に行ってもいいわけです。それを選べる力を持ってほしいし、そのような社会になってほしいです。

進学後に会った教え子が「大学は物足りない」と言っていました。大学では、入学直後に燃え尽きてしまう学生が多いと聞きます。それは結局、テストや入試がゴールになってしまっていたからかもしれません。

全員が第一志望に行ったわけではありませんが、皆が自分の未来を見据えて進路を選択していきました。

サッカー部でアドバイスを受ける生徒ら
サッカー部でアドバイスを受ける生徒ら
打ち砕かれた自信とたどり着いた決意
――そのような理想や思いは最初からですか。

いいえ。「自分の力量で分かりやすく教える」のが、理想の教師像でした。だから、立ち歩いたり、教室に戻らなかったりする生徒を、なんとか教える場に着かせなければと頭がいっぱいになりました。今考えると、自己満足の世界です。

そんな中、ある先生の「オールイングリッシュ」の授業を見て衝撃を受けました。中1にもかかわらず、全て英語で展開していたのです。それが私の目標になりました。でも、「もやもやとした違和感」が残っていました。

――「教えない授業」にたどり着いたきっかけは。

1つは、3・11の惨劇を目の当たりにした経験です。震災後、仙台に向かい、わずかな面影しか残していない学校の跡地を前にして、教育者として言葉が出ませんでした。命には限りがある。だから、教師がいなくても学び続けられる力を育てなければと思いました。困難から立ち上がる強さを持ってほしいと。

その後、ケンブリッジ大学の研修に参加する機会を得ました。「教え過ぎている」と指摘を受けたとき、自信を打ち砕かれました。同時に「もやもやとした違和感」の正体が、はっきりしました。「私が敷いたレールの上で、生徒たちが楽しそうに授業を受けていただけだった」と気付きました。「間違うのは当たり前だから、楽しみながら自由に進めてあげよう」と決意しました。

――教師が「教えない」ようにするには、大変な覚悟が必要なのでは。

教えたくなります。少し単純ですが、カーナビをずっと使っていると、道をなかなか覚えられません。

でも、カーナビに頼り切らず、間違いながら進むと、自然と道を覚えてしまう。つまりバランスが大事なのです。

教師が学び手になるのが、生徒が主体的になるポイントです。家庭でも同じだと思います。

――新しい取り組みには困難がつきものでは。

まずは、できるところから始めました。同僚と話し合い、一緒にやろうと決めました。前任校の校訓「自律自修」や管理職にも支えられました。でも、教師全員が同じ取り組みをやっていたわけではありません。同じ目標を共有し、それぞれのやり方で、学び合いながら進めました。

失敗できない仕組みを見直そう
――学校全体の方針を変えるのは難しいのでは。

学校全体では難しいと思います。受験勉強のためにはこれをやらなければ、との固定観念は、世の中全体に強くあります。

前年踏襲が選択肢の第一になるのも仕方のない面があります。前年踏襲どころか、教師のやる仕事は雪だるま式に増えていきます。いきおい、生徒たちは与えられ過ぎてしまいます。

今の学校教育には矛盾があると思います。失敗できず、やり直せないのです。

次のテストや宿題が決まったタイミングでやって来ます。失敗できる学びの環境を大切にしたいです。

また常に「主体的・対話的で深い学び」をするのは無理です。やりたいのなら、それらを決まったスパンで行う仕組み自体を見直してみてはどうでしょうか。

選ぶ力は学力に関係ない
――周囲の反応は。

授業を見に来てくれた先生からは、「すぐに取り入れたい」との反応と、「私の学校では無理。ここの生徒たちだからできる」との反応がありました。生徒に主体性がないのであれば、その前に、生徒に与え過ぎていないか、考えてみてはどうでしょうか。テストの点数が低くても、選択はできます。選ぶ力は学力と関係ないのです。こちらから与えるのではなく、生徒が自ら選ぶ。それが重要なのです。

私は出前授業に行くようにしています。普通の公立学校でも、生徒たちは目を輝かせています。たった1日でも、きっかけは得られるのです。

一方で、実験的に感じている保護者がいましたし、「できない子はどうするのか」と疑問が出ました。保護者会で、スライドを使って丁寧に説明したり、学級通信で伝えたりしてきました。

少しずつ手放してみる
――何から始めれば。

まずは少しずつ手放してみてはどうでしょうか。先生1人からでもできます。宿題をいくつかの中から選ばせたり、協働でしなければならない宿題にしたりなどです。そうして、1~2年間は見守りましょう。「今度、皆が教師役で授業を進行してみてほしい」といった思いを伝えてあげてください。同僚と足並みを揃えなければならない場合でも、可能な範囲から踏み出してみましょう。

――多忙な教員生活の中で、自身の学ぶ時間を作るには。

忙しいときは、インターネットで受けられる講座なども使っています。中には無料のものがあり、通勤電車の中でもできます。同僚からの紹介や、授業研究会での提案などもあります。

教育関係以外の人とも出会い、積極的に関わっています。そこからの学びは、生徒たちに必ず還元できます。変化が激しい社会で生徒たちは、どう生きていくのか問われています。

将来は、学校にいながら、生徒自身が起業するのも、あっていいと思います。

関係者以外の人と教育の未来を語り合おう
――今後、やりたいのは。

新しいタイプの教育デザイン作りです。これまでの授業やテスト、行事の常識をゼロから考える学校が必要だと思っています。

――若手教員と教員志望者が「今のうちにやっておくといい」のは。

1つ目は、教育分野以外の多くの人と会い、日本の教育の未来について話し合いましょう。2つ目は、海外に行って、日本の常識の狭さを感じてみてください。

視野が広がり、学び方、教え方はこれだけではないと思えてくるでしょう。

山本崇雄(やまもと・たかお)教諭

昭和45年生まれ。平成6年から東京都の中学校英語教諭としてオールイングリッシュによる授業を実践。平成29年度から現任校。サッカー部顧問。検定教科書『New Crown English Series』(三省堂)の編集委員を務める。