面接、場面指導ではこう答える
「叱る」ということに焦点を当てる。上手に叱ることができるようになれば、教師として一人前、とよくいわれる。教採試験でも面接や場面指導において、児童生徒をどのように「叱る」かが問われることが少なくない。学級経営や生徒指導で「叱る」は重要なファクターなのだ。教採試験ではどのような叱り方を提示すればよいのか、考えてみよう。
■叱り方を見る機会はない
ベテランの教師でも思わずカッとして感情的に怒ってしまう、ということが少なくない。それほど上手に叱ることは難しい。
その理由の一つとして「叱る」ことを学ぶ機会がない、ということがある。現場では若手教師が先輩教師の授業を見せてもらう機会は結構ある。その際、「叱る」ではなく「褒める」は授業の中で計画的に位置付けられているので、先輩教師の授業で「褒め方」の見本を見せてもらうことは可能だ。教育実習で実際に学んだことがある方も多いだろう。
しかし、「叱る」は突発的なものなので、授業や学級活動の中で叱る必要性が生じなければ「叱る」ことはない。つまり、「叱り方を見せてもらうことはできない」のであり、現場でも先輩教師から教えてもらう機会はほとんどない。実際に叱り方が上手な教師、また保護者は少ない、という実態もある。もちろん、教員志望者もその実際を学ぶ機会はほとんどないだろう。
最近は、保護者から「褒めて育てる、を家庭の教育方針にしているので、先生もうちの子供を叱らないでください」との申し入れもある、とのことだ。しかし、学級のルールを破ったり、他人を傷つけたりすることがあったら、やはりきちんと叱らなくてはならない。
叱るときは、児童生徒に反省を促した上で「やる気」を出させるようにしなくてはならない。それは、どのような叱り方だろう。
■叱られた理由を納得させる
叱り方のポイントは「子供の自尊心に気を配り、改善意欲を喚起する」ということであるという。
「叱る」ということは、「改めさせる」ことを目指したものだ。したがって、「叱られた理由を分からせる」「できるだけ、その場で叱られている理由を納得させる」ことが大事である。
また、理由を分からせ理論的に納得させることも重要だが、小学校高学年以上になるとプライドが高くなってくるので、感情的・心理的にも納得させる必要が出てくる。頭ごなしに怒鳴ったり、ネチネチ追及したり、追い詰めたりしないことが大事になる。学級全体に共通する内容であれば、全員の前で叱ってもよいが、そうでない場合は個別に叱る配慮も必要になってくる。
「人格と行動を分ける」ことも重要だ。人格を否定すると傷ついてしまうので、行動に焦点を当てて叱り、自分が選んだ行動がいけなかった、と捉えさせ、そうしないためにはどうしたらよいか、考えさせるようにしたい。「今回は、こういう行動がよくなかった」「では、どのようにしたら改善できるだろうか」などを考えさせていくということだ。
自分の面前で起きた行動や行為を叱るのではなく、他から報告された事項について叱る場合は、「事実や原因をきちんと調べる」「注意する場所、状況、時間などに配慮する」「児童生徒の言い分も聞いてあげる」ことも求められる。
試験ではこれらを基本的な考えとして、「叱る」際の心構えを述べるとよいだろう。
具体的な指導としては以下を参照にして、場面指導などで活用するとよい。
■気を付けたい「他との比較」
一般的に教師が児童生徒を叱るときの留意点は、次のようになる。
- 感情的に叱らない
- なぜ叱られているのか、その理由を説明して分からせる
- 同じ過ちを繰り返さないようにするにはどうしたらよいか考えさせる
- いつまでもくどくどと叱らない
- 友人など他の子供と比較して叱らない
- タイミングを考える―悪いことを見つけたらすぐに叱る
- 今叱っていることに加えて、関連した過去の過ちを蒸し返して叱らない
- 人格を否定するような言葉は使わない
叱るときに使ってはいけない言葉の例を別表に示したので、参考にしてほしい。「このような言葉を使わないようにしたい」などの例に用いると良いだろう。
学級全体を叱るという場面で避けなければならないことは、前に担任していた学級と比較するという点である。「前の年に受け持っていた学級と比べると、君たちは……」などと非難したら、児童生徒に確実に嫌われる。
■改善意欲を示したら笑顔で励ます
叱る前提として、最も重要なことは、「日頃のコミュニケーション」と「褒めること」だ。教師と児童生徒のコミュニケーションがとれていて、一人一人の長所をきちんとつかみ、褒めてあげている。こういう努力があれば、児童生徒も「叱る」ということを受けて入れてくれる。そして、改善への意欲を見せたら、笑顔で励ます、ということが大切である。
■子供たちに行動を考えさせる
ベテランの校長から、面接や場面指導で「叱る」ことをどのように扱うと試験官の印象がよいか、アドバイスをもらった。
▽何のために厳しく叱ったのかを明確に=叱る目的をはっきりさせることが大切。感情的に叱ったり、注意する基準が曖昧だったりすると、指導の効果は上がらない。叱る理由を明確に答えられるようにする。
▽目的は「児童生徒たちの行動改善」=叱り方が「厳しいか否か」というより、「不適切な行動を理解し、適切な行動を判断できるようになる」ようにすること。例えば、「休み時間後も遊んで授業に遅れた子供にどう指導するか」を問われた場合、「遅れることがどうしてよくないのか。それではどうすればいいのか、を子供に考えさせたい」と答えるとよい。「授業が始まって何分経ったと思っているんだ」と厳しく叱っても、理由が理解できなければ、行動改善への見通しも立たない。同じ誤りの繰り返しになる。
▽「笑顔で励ます」が大切=子供が素直に反省した時の対応として、「行動改善への意志を示したら、笑顔で励ましてあげたい」という思いを示すとよい。教師に対する信頼につながる態度である。
▽できるだけ短時間=叱る際の注意事項としては、できるだけ短時間で終えること、人格まで否定するような言い方をしないこと、などがある。これらの逆の行動は、教師への不信につながりかねない。
▽望ましい行動、不適切な行動を考えさせる=「校庭の花壇に入らないように注意してください」と問われたらどうするか。「花壇に入っている人がいる。やめるように」と伝えただけでは効果はない。子供たちに花壇に入っていけない理由や望ましい行動を短時間でも考えさせるようにしたい。外に出て実際の花壇の様子を見せて考えさせる、などもよい。子供たちに考えさせることを強調したい。
叱るときに使わないようにしたい言葉
- 「お前はいつも○○だ!」「またお前か」→(いつもではないのに)
- 「だから言ったではないか!」→(実際は言ってないのに)
- 「君は、何年生だ」「(例えば中学生に)小学生からやり直せ」→(いくつでも間違えることはある)
- 「あのときも、こうだったな」→(過去のことは加えない)
- 「だいたい君は(ダメ)」「だから君は(ダメ)」「君は一事が万事(ダメ)」「本当に使えないやつだ」→(人格は否定しない)
- 「○○なくせに、こんなこともできないのか」→(決め付けない)