【教員志望者のためのSDGs入門講座(2)】60~80年代の国際的環境問題

大阪府立大学教授 伊井直比呂
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 前回、今から半世紀昔の経済成長が著しかったころの日本で起こっていた公害のことを記しました。同時に当時の人々の被害や社会が抱えていた課題の一端を紹介しました。今回は、世界で同時期に起こっていたことを通じて培われてきた国際社会の問題意識の共有について述べていきます。

 1960年代以降、日本で公害が深刻だったころ、世界でも同じことが起こっていました。例えば、62年に発表されたレイチェル・カーソン(米)が記した『沈黙の春』という本には、DDT(殺虫剤)が畑や土壌に散布され、それが食物連鎖によって野鳥の体内に蓄積され、やがて鳥のさえずりが消え去った(死滅した)風景が描かれました。同様に付着した牧草の餌を通じてウシやブタだけでなく、やがて人間が健康を害していく連鎖などが実証的に示されました。つまり、破壊された生態系と自壊していく人の健康と社会の様子が告発されたわけです。

 他にも1970年代から80年代にかけてドイツのシュバルツバルト(森・山地、ドイツ語で「黒い森」)では硫黄酸化物や窒素酸化物に起因する酸性雨によって森の枯死が広がったり、北欧の国々の湖沼が酸性化して魚が絶滅したりした例などが伝えられました。当時は「地球汚染」などと言われたのです。一方、このような世界各地で深刻化していた環境破壊と生活破壊の中で、私たちはいったいどのような未来を招来するか、を考える国際的な関心も高まりました。

 その一つとして、1972年1月に国際的な研究・提言期間であるローマクラブ(本部・スイス)が『成長の限界』を発表し、「人類がこのまま現在の成長・発展を続けると100年以内に地球は限界に達する」と警告しました。同年6月には「環境」と「開発」に関する最初の国連会議がスウェーデンのストックホルムで開催されました。有名な「国連人間環境会議(UNCHE)」(通称ストックホルム会議)です。ここでは次のような重要な『宣言』と『原則』(「人間環境宣言:環境省訳」)が発表されています。

 「(略)人工の害が増大しつつあることを知っている。その害とは、水、大気、地球、及び生物の危険なレベルに達した汚染、生物圏の生態学的均衡に対する大きな、かつ望ましくないかく乱、かけがえのない資源の破壊と枯渇及び人工の環境、特に生活環境、労働環境における人間の肉体的、精神的、社会的健康に害を与える甚だしい欠陥である」(宣言3)ことを確認し、その上で「人は尊厳と福祉を保つに足る環境で、自由、平等および十分な生活水準を享受する基本的権利を有するとともに、現在および将来の世代のため環境を保護し改善する責任を負う」(原則1)ことを確認しました。

 つまり、私たちが有する基本的権利と負わなければならない責任を明らかにしたわけです。他方で、視点を先進国だけの問題にとどめず、開発途上国がいまだ「(略)十分な食物、衣服、住居、教育、健康、衛生を欠く状態で、人間としての生活を維持する最低水準をはるかに下回る生活を続けている」(宣言4)ことなども取り上げて、途上国と先進国双方が抱える問題の同質性を示しました。

 次回は、いよいよストックホルム会議以降に発展する持続可能社会の考え方が登場します。

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