【教員志望者のためのSDGs入門講座(3)】「持続可能な開発」という概念の誕生

大阪府立大学教授 伊井直比呂
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 前回、ローマ・クラブによる「成長の限界」の提言、そしてストックホルム会議での「私たちの基本的権利と将来世代のための責任」など、少しずつ人間と環境の未来へ向けた視座の広がりを紹介しました。第3回も「持続可能な開発」概念生成の歴史的発展を追い掛けていきます。皆さんが教員になられた後も役に立てばと思います。

 さて、前回記した1972年のストックホルム会議(国連人間環境会議)は、歴史的にとても重要な宣言を発しました。ところが、その会議後の世界は残念ながら環境保全がもたらす長期的価値への理解と行動計画の不足などから、国際社会全体に対しては十分な効果をもたらしませんでした。むしろ既存の「生産と消費形態」や差別的抑圧・貧困などが、例えば、新たにオゾン層の減少や砂漠化の拡大など環境状況をより深刻にしたと言われています。

 そこで、82年に開催された国連人間環境会議(ナイロビ)では、生活・環境・開発・人口および資源問題などが個別の問題として扱われるのではなく、それぞれが相互に複雑に関連していることに着目した方策をとることで「持続的な社会経済の発展の実現を目指す」ということが宣言されました(ナイロビ宣言)。

 同宣言を受け、日本政府が設置を提案して国連総会で承認された委員会が有名な「環境と開発に関する世界委員会(WCED)」(通称ブルントラント委員会)です。目的は「21世紀における地球環境の理想の模索と、その実現に向けた計画を策定」するもので、83年から87年まで計9回の開催を経てとても大きな成果を残しました。中でも、同委員会が提出した報告書”Our Common Future”(『われら共通の未来』(87年))は、「持続可能な開発」という概念を著し、その意味を「将来の世代のニーズを充足する能力を損なうことなく現在の世代のニーズを満たすこと」と明確に示したわけです。簡単な表現に言い換えると、次に生まれてくる私たちの子孫やその次の世代の人たちが私たち同様にこの社会・地球で豊かに暮らし発展できることを確保しながら私たちの幸福追求や発展を行う、ということになるでしょう。これは世代間公平という考え方でもあります。

 さて、第1~3回までを振り返ってみます。およそ持続可能な開発概念、そしてそれを基にした持続可能性という考え方の生成が見えてくるのではないでしょうか。連載第1・2回目では、「崩れ行く自然環境や軽んじられる人々の暮らしと人間の尊厳性」など、原点として「いのち」や私たちが大切にすべき「価値」を考えました。その上で、「成長の限界」「将来の世代」「私たちが有する基本的権利と負わなければならない責任」など、過去・現在そして未来へと世代を俯瞰して社会を問い直す視座の広がりがありました。そして、今回は「持続的な社会経済の発展」「持続可能な開発の概念と意味」「世代間公平」など、21世紀以降の社会を支える新しい価値が獲得されてきたことを記しました。

 次回は、いよいよこの歴史を踏まえて92年にブラジルで開催された「環境と開発に関する国際会議」(地球環境サミット)の内容やその後の世界、そして当時の子どもから見えていた世界や未来について記します。

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