【教員志望者のためのSDGs入門講座(6)】全ての人が栄え自由な存在となる

大阪公立大学教授 伊井直比呂
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 今回から連載の後半に入ります。早いですね。連載前半は、主に「持続可能な開発」概念とそれに基づく「持続可能性」概念の生成の歴史を主な国際会議の成果を拾い上げながら説明しました。中でも、「環境」と「開発」概念の意味と、それに基づく「持続可能な開発のための環境保護と開発の不可分性」(1992)が確認されてきたことで、人々の存在から地球規模までの世界の深刻な状況が共有された意義は大きかったと言えます。

 21世紀に入り、MDGsによって国や国際機関単位などでの取り組みだけでなく、市民が当事者として問題解決に参画することが容易となりました。そして、ESDは教育を通じて世代内と世代間の公平性や発展可能性を確保するために必要な価値、考え方、制度を学べるようにし、さらに学習の在り方や学習方法、内容の転換が図られました。これらはESDを主導するユネスコによって「教育の再方向性」と表現されました(グローバル・アクション・プログラム:GAP)。

 ここでESDの特徴的な事例を紹介します。私自身が引率した日本の学生と訪問先のフィリピンの学生とがマングローブ林の伐採問題について議論することがありました。日本側は環境保全から伐採の禁止を、フィリピン側は伐採をしてまでエビの養殖場をつくり賃収入を得て教育が受けられる必要性を主張しました。ちなみに、日本はエビの消費が最も多い国です。つまり、この事例一つをとっても貧困と環境問題を同時に解決しなければならない問題(密接不可分性)であることが分かり、かつ私たちの消費構造や経済にも深く関係していることが分かります。また、当然に現世代の誰かを取り残すことなく、かつ将来世代の可能性と環境を確保しながら解決していくことも必要です。

 このようにESDはいずれか一視点からの解決ではなく、基本的人権を基盤として公正に問題を解決に導く新たな価値や思考様式、あるいは生活様式が求められます。まさに日常の「当たり前」を問い直す思考(批判的思考)や、問題解決のためには異なる立場の人との学び合いや協働・協力がとても重要になって来ることが分かります。これらは学習指導要領にも反映されているところです。

 さて、ではESDによってどのような社会や未来づくりを目指しているのでしょう。それは、第70回国連総会で採択され「我々の世界を変革する」と国際社会の決意を示した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で表現される世界です。いわゆる17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標」(SDGs)です。とりわけ、決意に示された持続可能な社会像は、「誰一人取り残さない/取り残されない」(宣言4)という私たちの心を突き動かす共通理念で表されています(ぜひ確認してみてください)。

 概観すると17の目標群から見える世界はよき環境の中で全ての人の人生が栄え自由な存在となる姿でしょうか。そこには、貧困、飢餓、病気および欠乏から自由な世界。恐怖と差別・暴力から自由な世界。全ての人が教育を受けて自己を発展させることができる世界など、人間の発展とその基盤となる社会が示されています。つまり、これらを阻む複雑に関係している問題と問題の原因をESDによって多角的に理解し解決に向かわせるわけです。

 次回はSDGsの実践についてお話します。

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