【教員志望者のためのSDGs入門講座(8)】身近な社会を変えていくのは

大阪公立大学教授 伊井直比呂
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 前回の続きです。ESDの第2段階の学習として挙げた「(2)個別に事実として把握した問題を、例えば身近な地域や学校にある環境問題として学習者の視点で探してみる」ことが、ESDではとても重要であることを述べます。

 学習の第1段階での「(1)環境問題、差別・貧困問題あるいは平和の問題などの事実の態様を個別に学ぶ段階」では、一般的に問題の実態を知りその背景と原因を調べたり、今後の在り方を考えたりすることが多いでしょう。これはとても大切な学習です。

 しかし、課題理解で終わることなく身近な問題を探る第2段階に進むことで、学習した内容と同様の問題や課題が家庭や地域、学校生活の中にあることに気付いたり(Critical thinking)、自分の参画可能性を探したりすることになります(主体性)。このことは社会で起こっている事象と自分とが別の世界にあるのではなく、自らが問題の当事者であり、解決のための参画者であることに気付きます(当事者性/参加的)。そして、セバン=スズキさん(第4・7回)のように、大人には見えないことに対しても未来の時間を多く有している子供だからこそ見えたりすることがあります。

 また、脆弱(ぜいじゃく)性を抱え暮らしている人からのまなざしこそが問題解決のためにとても重要だったりします。だからこそ、多様な背景を持つ人たちが協働して考えるわけです(多様性/協働)。この結果、児童生徒は身近な生活を通じて、また探究の時間を通じて問題を発見します。

 例えば、「点字ブロックの上に駐輪してある自転車は視覚障害者の持続可能性を阻害している」「男女別の出席番号が暗黙の差別を生み出している」「食べ残しがフードロスを生む以上に、規格外の野菜などが廃棄される消費構造こそがフードロス」「あいさつを返さないのは相互理解の真逆で平和を崩している」「100年先を考えることも、10分後にこの部屋を利用する人のことを考えて利用することも同じ」「AIによって判断される未来社会において人間の尊厳性は持続しているのか」「不公正・不公平を放置するのはいじめへの無関心と同じ」「優先座席を空けることが持続可能社会」「サポートの連鎖」。これら全て実際に小、中、高校生の考えた問いです。

 このような身近な場での問い直しが自己の振る舞いを変え、行動の変容を生み出すきっかけとなります(責任、態度、権利に基づく学習、主体性)。そしてESDの第3段階が、マングローブ林伐採可否を巡る討論(第6回)でも例示した通り、どちらも持続可能性にとって必要な価値と価値が衝突する場面での新たな解決法への挑戦です(最適解、探求)。他にも、現在のパンデミックにおける感染防止のための生活制限と、それに対する人間の自由・自立の確保の場面は「対立」としてではなく、そこで生まれるさまざまな「葛藤」や「問題」を踏まえて、人々が発展し続け、同時に安心して暮らし続けられる人と社会との新たな関係性が人権や尊厳性を基盤に生み出されようとしています。

 以上の3つの段階の展開は一例ではありますが、知と経験と創造が接合して学習の中心に自己が存在(教育の質)して身近な社会を変えていく力となります。まさに「ESDがSDGs達成への手段」となります。

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