【実例で学ぶ論作文講座(10)】東京都の過去問を使った演習②

明海大学外国語学部教授/教職課程センター副センター長 大池公紀
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 第9回の回答例を解説

 今回は第9回でお示しした回答例について細かく解説していきます。答案例には、それぞれ以下のような課題があります。

 「~かもしれない」「~否定できない」といった不確実な表現は使わない。断定、言い切りを心掛けて「強い文体」を意識する。

②「近年の学力調査」といった表現も曖昧。「PISA2018」「2020年度全国学力・学習状況調査」など、根拠資料を具体的に示して「私は知っているぞ」とアピールする。可能であれば、初出で正式名称を書き、以降は略称を使用する。

③具体策の見出しは具体的に示す。「~環境づくり」「~引き出す」だけでは、具体性が見えないのでどうするかを対句表現で加筆する。

④分かりきっていることは書かない。「そんなこと言われなくても知っている」と、採点者をマイナス気分にさせてしまう可能性がある。

⑤「つもりだ」「いきたい」「思う」「考える」などは、頭の中で考えているだけで行動しない人物のイメージを持たれる。そのため、「約束する」「全力を尽くす」などと言い切る。

⑥曖昧な上に冗長で不要。特に長文は、読む人に主述のねじれを探られる可能性があり(実際にねじれている場合が多い)、50字以上の長文は書かないように心掛ける。

⑦具体策を展開した結果、その策によって児童生徒がどのように変容したかを述べるとポイントが高い。

⑧2つの策で同じこと(ここではボランティア)は書かない。想像力を働かせて多様な手段をあらかじめ考えておくことが大事。

⑨ 読点は、1文に多くて2カ所程度にとどめる(短文では1カ所で十分)。息継ぎのところで「、」を入れたくなるのを我慢する。「、」を多用すると読み手は疲れる。

⑩結論の決意文では、自治体名を最後に入れる。どこで働いてもよいわけではなく、この自治体で、この街で私は頑張るのだという強い決意を示す。

 上記課題を踏まえて、手直しをしたのが以下の回答例です。

 自らの考えを的確に表現する力は、児童生徒が身に付けるべき力の一つである。OECD生徒の学習到達度調査(PISA2018)で日本は、読解力などの育成において文章理解とその表現について課題があると指摘されている。こうした現状を踏まえ、私は中学校の英語の教師として英語への抵抗感の軽減と全教育活動での言語活動の充実を中軸に据えて授業改善に取り組んでいく。

1 表現することに抵抗を覚えない授業づくりの推進

 私は生徒の積極的発言を促すために発信することへの抵抗感を低くする授業を強く推し進め、生徒が積極的に発言できるようにする。私は足立区民講座ボランティアとして授業サポートに参加し、先生方が指導指針を明確にして計画的に「楽しい授業」を創る様子を体験した。その際、間違った発言を否定せず、丁寧に言い直すことで区民には笑顔で参加できる雰囲気が生まれることに気付いた。この経験から、私は生徒が発信できたこと自体を褒め、英語学習への抵抗感を軽減させる姿勢を積極的に取り入れる。たとえ間違った答えを発言しても大丈夫だと安心して参加できる教室空間をつくり、生徒が英語学習の楽しさを知って積極的に表現するよう実践を重ねていく。

2 言語活動の充実に重きを置いた学級をつくることで授業改善を促進

 自分の思いや考えを的確に表現する力の育成に当たって、私は言語活動の充実を学級経営の中軸に据える。教育実習校では朝の学級活動の時間を使い、「なんでもスピーチ」という1分間好きなことを話し続ける言語活動があった。生徒たちは照れながらも自分の思いを語り、肯定感あふれる時間を過ごしていた。その姿勢はそのまま英語の授業の中にも取り込まれ、生徒たちが表現力豊かに学べる楽しい授業が構築されていた。担任が「コミュニケートできない学級では充実した授業は実現できない」と語っていた経験から、私は朝の学活で時に日本語、時に英語によるスピーチタイムを行う。相互の能力向上のために質疑応答の時間も設け、さらなる言語活動の充実を図る。全ての教育活動の土台に言語活動を据えることで、教科活動の中にも自ら学び自ら考え的確に表現できる生徒が増えていくようにする。また、学校内にこの取り組みを公開することで、先生方からの新たな示唆をいただいたり協働したりする可能性も追求する。

 以上の実践を通じ、私は人を支え世界に羽ばたける生徒を社会に送り出せるよう日々授業改善を重ねていく。都民の信託に応えられる東京都の教育公務員として、全力でまい進していく覚悟である。

 修正前の文章に比べて整理がつき、力強い文体になったと思います。ちなみにこの回答を書いた学生はめでたく試験に合格し、東京都の公立中学校教員として頑張っています。
 
【ちょこっとコラム8 くどさのないクールな文章を心掛ける】

 提示された設問を繰り返したり(採点者は「文字数稼ぎだな」と思います)、「私が教員になったならば」などの分かり切った記述をしたりすると「くどい」と思われます。可能な限り同じ言葉の繰り返しは避け、言い換えるなどします。採点者に「この人、くどい性格なんだろうな…」とか「あなたに言われなくても、そんなこと分かっている」と思わせない文章を心掛けてください。そうした「クール」な文章、少し古い言葉であれば「Hard-boiled(ハードボイルド)」な文章を書くことを目指しましょう。
 


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