【連載】教師のための人間関係づくり 第4回 保護者に言いにくいことを伝えるコツ

明治大学文学部教授・教師を支える会代表 諸富祥彦

 

いま、保護者とどう関わるかが、とても難しくなってきつつあります。

ちょっとしたことで細々とクレームをつけてくるクレーマー保護者。

なんでもかんでも「先生、これやってください」と注文を出してくる依存的な保護者。

子どものことにまったく無関心で、教師から電話すると「どうして、そんなことで、いちいち電話してくるんですか」と文句を言い始める保護者。

こうしたさまざまな保護者がいます。そして、それぞれの保護者に対して、違った対応が求められるのです。

保護者と良い関係をつくる上での基本姿勢は「受容と傾聴」です。つまり、保護者の言い分の背後に、どのような気持ちが潜んでいるかを理解しようとして話を聴く姿勢です。

なぜ、受容と傾聴が重要なのでしょうか。

たとえば、一見クレームに見える保護者の訴えの背後にも、「わが子を思う気持ち」があるからです。教師がそこを分かっていないと、うまく関係はつくられません。

一見、一方的にクレームを言ってくるだけのように見える保護者であっても、その言葉の背後に、「わが子かわいさのあまり、どうすればいいか分からずうろたえて、つい教師に文句を言いたくなっているだけ」という気持ちが透けて見えることがあります。

そんなとき教師は「お子さんのこと、大好きだから、ほんとうに困っておられるんですね」と、保護者のクレームの背景にある気持ちを理解して受け止めることです。「お子さんにこんな思いがあるんですね」と、保護者の子どもに対する気持ちを受け止めて理解していると、「先生、そうなんです…」と、どっと泣き崩れる方もいます。そういう姿勢でいると、多くの保護者は心を開いてくれます。

その一方で難しいのは、教師という立場からすると、ただ保護者の気持ちに寄り添うだけではすまない場合も少なくないことです。教師として、「言うべきこと、言いにくいことを保護者に言わなくてはならない場面」も少なくありません。

たとえば、子どもに食事を与えず、毎日夜遅く帰宅する保護者がいます。こうした保護者に対して、食事を準備してほしいことをどう伝えるか。これは難しい問題です。

というのも、ここで教師が「お母さん、もうちょっとお子さんの面倒をちゃんとみてください!」などと説教してしまうと、保護者の自尊心が傷つき、教師との関係を断とうとすることが少なくないからです。自尊心が傷ついた保護者は、怒りがこみあげてきて、その怒りの矛先をどこに向ければいいのか分からなくなります。

そして、その矛先は多くの場合、子どもに向かってしまいます。学校で教師から非難された保護者が、帰宅後、傷ついたゆえの怒りを子どもに向け、「あんたのせいで、私が先生から叱られちゃったじゃないの!」と、子どもに当たったり暴力をふるったりする場合は少なくありません。結局、犠牲になるのは子どもなのです。

こんなとき、どうすればいいのでしょうか。

ヒントになるのは、アドラー心理学の「勇気づけ」です。この方法では、難しい場面で相手と良い関係をつくるうえで一番大切なのは、相手が「この人にリスペクトされている」と思ってもらえることだと考えます。

具体的には、教師はこうした場面で、(1)自分を一段下げ(2)お願い口調で(3)具体的に伝える――ことです。

「まさる君、お母さんのおにぎり、ほんとうに大好きなんですよ。いつも私に自慢しているんですよ。できれば毎日、つくっておいてくださると、まさる君、もっとがんばれると思うんですよね」などと言ってみるのです。

おにぎりが無理なら、パンを買って用意しておいてもらうだけでもいいでしょう。無理なお願いは決してしないことです。

人間、ひとから同じことを伝えられるのでも、「上から目線で説教口調で言われる」のと、「こうしてくださると」と「お願い口調で言われる」のとでは、大違い! 効果もずいぶん、異なるはずです。