【連載】教育現場の課題をひもとく 道徳から「特別の教科 道徳」へ③「多面的・多角的」とは

東京家政学院大学教授 長谷徹

 

今次の改訂での特徴の1つとして、学校教育活動全体を通じて行う道徳教育については「第一章 総則」に位置付け、「特別の教科 道徳」(「道徳科」)に関することは「第三章 特別の教科 道徳」に示すというように、すみ分けを明確にしていることがあげられる。

その中で目標についてみると、道徳教育に関しては「自己の生き方を考え、主体的な判断の下に行動し、自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うこと」(小学校/中学校はこれに準じる)と、これまでの目標を、より簡潔にした表現で示されている。

道徳科の目標については「第一章総則」の第1の2に示す道徳教育の目標に基づき、「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる」(小学校)とされ、これまでの目標にはなかった〝物事を多面的・多角的に考え〟という文言が新たに示されている。

このことについて解説書(小学校)では「物事を多面的・多角的に考える指導のためには、物事を一面的に捉えるのではなく、児童自らが道徳的価値の理解を基に考え、様々な視点から物事を理解し、主体的に学習に取り組むことができるようにすることが大切である。なお、例えば、発達の段階に応じて二つの概念が互いに矛盾、対立しているという二項対立の物事を取り扱うなど、物事を多面的・多角的に考えることができるよう指導上の工夫をすることも大切である」と述べられている。

この「多面的・多角的」について考えてみる。

これまでも道徳授業については、例えば、子どもに「先生、道徳って何を勉強するの」と聞かれたとき「いろいろな考え方や感じ方と出会って自分の考えをまとめる時間だよ」と答えてきたのを覚えている。

道徳に関心をもって取り組んできた教員の多くは、「道徳の時間では正答はないんですよ。だから自分の考えをしっかりと発表しなさい」といった助言を与えながら取り組んでいる。教科の時間では自分の考えなどをなかなか発表できない子どもも、道徳の時間では自分の考えを堂々と発表しているなどといった声を聞くこともある。

道徳科では、これからもこうした考えで、子どもたちに安心して発表できる授業を工夫してくことが望まれる。その工夫をするときに留意しなければならないのは「多面的・多角的」という言葉が示されている点だ。子どもたちの発言を、ただ単に広く、いろいろな考えをといったような考えだけでなく、次のように、多面的や多角的を意識して授業に取り組むことが求められてくるのである。

まず、多面的という視点から考えてみると、ねらいとする道徳的価値(内容)には、例えば「正直、誠実」では、それは大切なことだとする考えもあれば、大切だけれど実行するのが難しいこともあるといった思いをもつ子どももいる。難しいけれど勇気を出せば実現できそうだ、といった考えをもつ子どももいると考えられる。こうした1つの道徳的価値について、多面的な考えに出会わせることが必要である。

一方、例えば「友情、信頼」という価値については、「親切、思いやり」や「公正公平」「相互理解、寛容」といった価値や「礼儀」「節度、節制」といった価値(内容)も関連してくるといった視点、換言すれば価値を「多角的に考えさせる」ことも必要であろう。さまざまな角度から、ねらいとする道徳的価値について考えさせることが重要になってくる。

授業における工夫で考えると、子どもたちからさまざまな考えなどが出された後、指導者が、それら子どもたちからの反応などを適切に整理し、多面的・多角的に価値を捉えられるように、板書、発問、話し合いのもち方などについて意識して工夫に取り組むことが重要である。