【連載】教育現場の課題をひもとく 保護者にどう対応するか① ストレスの多い現実が横たわる

帝京大学教職大学院教授、元全連小会長 向山行雄

○〈ママカースト〉の現場で

昨年度、保護者等から解決困難な理不尽なクレームや要求を受けた小学校は約37%。(東京都公立小学校長会調査)。クレームの71%は保護者からである。保護者からのクレームに対応するためには、相手を知らなければいけない。まず現代の小・中学生保護者世代の一断面を探る。

東京の湾岸部、高層マンション街が立ち並ぶ。十数年前から、都心の地価下落に伴い、若い家族が暮らすようになった。作家の桐野夏生が、この町を舞台として『ハピネス』を書いたのは2013年。桐野はそこで暮らす母親たちの、いわば〈ママカースト〉ともいえる姿を見事に描き出す。

誘われて、分譲マンションの小公園に遊びに出かけるときの、賃貸マンション居住者のためらい、屈辱。お誕生会のときのメニューやプレゼント。そのいずれにも〈ママカースト〉が見え隠れする。日々そこで暮らす若い母親にとっては、ストレスのたまる空間である。

そのストレスが、時に外界に向かう。その攻撃先として、学校が狙い撃ちされる。湾岸地域の学校は華やかさの中に、「地雷原」を抱えている。

○若い母親の〝公園デビュー〟

90年代前半、〝公園デビュー〟が話題になった。自分の幼子を公園で遊ばせることができるか、若い母親である自分もママ集団の中に入れるか――。親子ともに公園で過ごせるようになれば〝公園デビュー〟を果たせたことになる。〝公園デビュー〟のためには、その空間にふさわしい親子の洋服、遊び道具、言葉遣いや態度が必要だ。あるデパートには、「『公園デビューコーナー』」が開設された。コンサルタントが年収やマンション価格、周りの環境などを勘案して、幼子と母親の服装をコーディネートしてくれる。若い母親と幼児は、その洋服を着て公園デビューを果たす。

そのころ、私は東京都文京区で幼稚園担当の指導主事をしていた。東京大学、お茶の水大学、日本女子大学などがある文京区は、名門幼稚園の集積する土地である。各幼稚園を回り、若い母親たちの相談相手をする園長や教頭・主任たちから〝公園デビュー〟にまつわる事例をよく聞いていた。他者とコミュニケーションの取りにくい保護者の存在について、当時の私は、まだ漠然としかその難しさをとらえていなかった。

数年後、その世代は小学校の保護者になった。それに合わせて「小学校ハウツー本」がよく売れた。その書には、学級担任や教頭との接し方、PTA役員の辞退のしかたなどのノウハウが満載されていた。

○「モンスターペアレント」出現

子育てが落ち着いて、再就職した母親を待ち受けていたのは、厳しい労働条件の職場。毎日が忙しく、子どもの朝食も満足に作れない。子どもの学校行事にも参加しにくい。そんな時に、わが子が仲間はずれにされたと泣き叫ぶ。母親はよく確かめもせずに、学級担任に説明を求める。しかし、若い学級担任は頼りなくて、対応もしどろもどろ。

そこで、休暇をとって学校へ乗り込む。管理職に対応を訴える。しかし、事態は改善されない。数日を置いて、教育委員会へ「学級担任の交代」を申し出る。さらにエスカレートして「校長の交代」を要求する。こうして、忙しい母親と「頼りない」若手教師と、及び腰の管理職の〈関係〉は抜き差しならぬものになる。そして、その母親は「モンスターペアレント」と呼ばれるようになる。

私は、10年間の教育委員会勤務。11年間の校長時代に、たくさんの「保護者対応」をしてきた。ほとんどの保護者とは、最終的には解決を図ることができた。しかし、解決できない事案も一定数あった。忸怩じくじたる思いである。

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