(生き生きした教師生活 メンタルヘルス気を付ける視点)弱さを慈しむ組織文化を構築

山積する新たな教育課題の対応や慢性化した多忙の中で、教師の疲弊や精神疾患などが増えている。未来を創る子どもたちにより良い実践を行うためにも、教師が生き生きと日々の教職に向かっていけるような「メンタルヘルス」上の意識や行動に理解を深めるのは一層、重要度を増している。3人の専門家に気を付けるべき視点や意見を聞いた。


弱さを慈しむ組織文化を構築
群馬大学教育学部教授 黒羽正見

現代の苛烈な競争社会の象徴である「数値」への呪縛は、学校組織の人間関係のつながりを断ち、教師の孤立化を余儀なくさせている。「多忙化」問題の核心は、個々の学校が組織としての目標を達成するために切磋琢磨する学校文化の基底であるべき教師の充実したビリーフを欠いた教育活動の展開にある。

わが国の良心的な教師は、教育の営みの「不確実性」の真っただ中に身を置き、全人格を懸けて日々実践している。にもかかわらず、その不確実性と不安の中でひたすらがんばりに駆り立てられ、次第に教職への自信や精神的ゆとりを喪失する教師がいる。一方、同様の状況下でも、教職に対する自信と誇りを失わず、前向きに取り組む教師もいる。

両者の分岐点は、教師が一個の人格として尊重されている実感を得る居場所があるかどうかにある。この居方が教師に「私はこの学校の一員である」というわれわれ意識としての学校組織アイデンティティーを育み、情緒的絆による連帯感を強める。

また、教師は日々目の前にいる子どもや自身のありようを厳しくみつめる。そこに含まれる問題を意識化し、工夫を凝らそうとする内面的な思考、感情に支えられながら、子どもとの相互行為を繰り返し、「役割期待」としての手応えを得ようとする。大方の教師は、子どもに対するこの役割期待の遂行の正否が、多忙感とやりがい感の最大の分岐点となる。

教師は一種独特の職業的態度を備え、使命感をもち、子どもに無定量にコミットするのがその職業の核心だという組織集団の意識や態度を持ちやすい。前向きで明るい組織になるか、後ろ向きで強迫観念を生み出す組織になるかは、その学校の教師集団の人間関係から生起する組織文化に左右される。

多忙感のある組織では、職位による役割分担の責任度が明確であり、管理職と一般教師の間に「位階性」による乖離が認められる。こんな組織には画一性、閉鎖性が定着し、一様に組織化され、制度化された「負の文化」が窺える。この負の文化を前向きで明るい組織文化に変えるには、「冷たい組織からは何も生まれない。組織は個々の教師が互いにその意志や感情を伝え合う対話によって紡ぎ出される」という言葉を管理職は肝に銘じてほしい。

その上で、人間理解への深い洞察力を磨き、公式、非公式な場での対話を豊かにして、「1人でがんばるな」「時間をかければ必ずできるよ」「もっとゆっくりやりなさい」など、日々の教育活動で教師が職能発達を図るための親身になったまなざしを大切にしたい。

多忙化の「多忙感」を「やりがい感」に変えるには、教師が今日の強迫する社会的まなざしから自由になる必要がある。個々の教師は、自分自身がこれまで「良し」として疑わなかった自己のありようを対象化し、失敗や不安の感情にとらわれている自分を自覚し、その自分が紛れもない自分の姿であると率直に認め、受け入れたい。

そのためには、瑞々しい活力に充ちた同僚性を育む必要がある。この同僚性は子どもの確かな変容を目指し、教師がお互いに悩みながら、子どもの学びを中心に実践を積み重ね、自身の内省を通して本音で対話できる愛情と信頼を基盤とした温かな厳しさのある人間関係とつながりである。

全国の先生方には、専門職である教師として自負をもって、今の厳しい教育の現実を耐え抜いてほしい。それには特別の勇気は要らない。目の前の子どもたちに対峙した時、心の奥底で、「よし、また子どもたちと一緒に生きていこう」と自分の弱さを慈しみつつ、新たな自分を立ち上げようとする自己更新への密かな決意でよいのである。

黒羽正見(くろは・まさみ)教授 茨城県小・中学校教員、富山大学教授を経て現職。学校教育学博士。専門は教師教育。

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