【連載】教育現場の課題をひもとく 言語活動の成果と課題② 「動き回り」を可能にする状況を

埼玉学園大学人間学部子ども発達学科長 梅澤実

 

○学力の明確化

前回、言語活動の成果と課題を整理し、言語活動はあっても、学習者が能動的に参加していないという点に問題があるとした。

今回は、言語活動を取り入れる上で考えておきたい点について、「学力」「知識」「状況」をキーワードに、子どもたちの学習過程から考える。

学校教育法第30条第2項に、学力を構成する要素として次の3つが示された。(1)基礎的な知識及び技能(2)基礎的な知識及び技能を活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力などの能力(3)主体的に学習に取り組む態度――である。3つの要素は、学習者の中にバラバラに存在するものではないし、個々に育てるものではない。個の中で統合されて初めて学力となる。

○「知識」の捉え

パウロ・フレイレ(『被抑圧者の教育学』)は、教師が学習者に一方的に語りかける教育を「銀行型教育」とした。教師は、学習者を金庫(容器)と見なし、知識を預金する預金者ということになる。学習者は知識を辛抱強く受け入れ、暗記し、反復する存在となる。こうした教育は、世界や他者とともに存在することを学習者に意識させず、預金を蓄えれば蓄えるほど、世界の傍観者にしてしまうという。

学習者を傍観者にしてしまう知識貯蓄型の教育は、本来の言語活動を生み出すことはない。

○学習過程―子どもたちの「動き回り」

池田久美子(「『はいまわる経験主義』の再評価」・教育哲学研究44号・1981)は、かつての総合学習推進論者(経験主義)と否定論者(系統学習)間の議論を分析し、両者とも、「知識」を意味の固定した命題と見なす知識観から脱せず、「経験」と「知識」との二元的分裂は避けられなかったという。

ここで、子どもたちの学習過程を模式化してみよう。

単元に入る前、教師が考えさせたい「問題」は、学習者にとって自分たちの「生活」と関連しているとは考えられていない。導入段階は、「問題」と「生活」との接点を気付かせる段階である。その気付きをもとに、子どもたちはその関係を探ろうと動き回り出す。

ここでは、それまでの学習で培われた教師の示す「問題」に対する信頼がそれを可能にする(「前の授業でも先生の提示してくれた問題は学習してよかった」といった感情である)。次第に「問題」の中に「生活」を取り込もうと、子どもたちの動き回りは活発になる。「問題」が「生活」の中に取り込まれたとき、学習者の葛藤は最大になる。今まで考えずにすんでいたことが、「これは考えざるを得ない問題だ」と捉えられ、それに対する欲求や感情が喚起され、どうしたらよいかと迷う心的状態が引き起こされるからである。

「動き回り」とは、問題解決に向け、既有知識や経験との関連を探ったり、友人や周りのものから「知識(情報)」を取り込もうとする活動である。動き回ることができる「状況」は、自分の問題を解決するための言語活動を生成し、それは、学習者の「経験」となる。その「経験」は、既有知識を再構成する方法や問題解決過程の感情をも含んだ「知」として修得される。

教師に求められるのは、学習者に「動き回り」を可能にする状況を創出することであり、その「動き回り」を「見る(評価)」ことである。そうした教師の「見る」行為は、学びを、入力と出力の数値的評価から教師を解放する。さらに、「見る」行為は、自己の「実践知」に対しての自信を育み、仲間教師の「実践知」に対する敬意と教師集団の学び合いを生成することになる。

次回は、「授業設計」「学習活動」をキーワードに考える。

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