【連載】クオリティ・スクールを目指す 第70回 エビデンスを充実させる方策必要

教育創造研究センター所長 髙階玲治

よりよい教育実現のために

平成28年度の国の文教関係予算が決まった。それに関連して話題になったことの一つに、エビデンス(科学的根拠)の問題がある。

例えば、1学級35人か40人かで、財務省と文科省の間に論争があったのは記憶に新しいが、どちらが望ましいか、双方に確たる根拠がないままに、35人学級を継続することになった。

私は、40人学級に戻すのは時代錯誤だと考える。外国では少人数学級は20人以下である。35人でも多すぎるといえる。ただし、「何人が望ましいか」というデータ的根拠は、残念ながらない。

しかし、こうした論議から、財務省のみでなく、行政改革の側から文科省に注文が出てくるようである。馳浩文科相も「エビデンスに基づく文教予算」を言いはじめているという。

最近、教育経済学の立場からエビデンスの重要性が提言されはじめている。例えば、中室牧子慶應義塾大学准教授の『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)がある。

他の研究者も指摘していることであるが、国際的な教育経済学のさまざまな社会的実験によれば、高校生や大学生の教育よりも、就学前教育の方が、将来において重要だという結果がみられるという。アメリカのある実験では、良質な保育園で育った子どもたちは、大人になって平均給与が高く、犯罪率も生活保護受給率も低かったという。

つまり、将来を考えれば、良質の保育園児は収入のよい職業につき、税収が増えるのみでなく、貧困層が減少するから税金の無駄遣いにならないというのである。

問題は、このような国際的な常識は、わが国では通用しないことだという。政策に反映できる調査も実験も、極めて脆弱だという。

しかし、政策に関する調査のみが問題であろうか。学校向けの教育調査もまた、最近はかなり難しくなっているのではないか。中室准教授も教育調査がやりにくいと言っているように、最近の学校は多忙化や個人情報保護などを理由に、調査に協力的でない状況があるのではないか。

例えば、全国学力・学習状況調査には、各学校が活用可能な情報が盛りだくさんであるが、外部の者にとって極めて利用しにくい。また学力以外でも、学校が必要とする調査研究は多くあると考えるが、十分でない。

しかし、多様な問題について調査が難しいことは、結果として個人の狭い経験や自己判断による考え方が横行することになる。わが国はエビデンスの考え方も希薄のようにみえる。

教育は学校のみの判断ではなく、外部の研究者などが多く調査に参画することで多面的で有効な情報が期待できる。エビデンスに基づく効果的な教育実現が可能になる。

そうした教育環境を期待したいと考える。

関連記事