【連載】教師のための人間関係づくり 第9回 教師はこうして追い込まれる

明治大学文学部教授 教師を支える会代表 諸富祥彦

○児童に振り回される担任

教師にとって人間関係力は、求められる大きな資質・能力の1つである。「教師力」と呼ばれるものの5割以上が、人間関係力であるといってもいいだろう。

逆にいえば、同僚や保護者との人間関係がうまくいっていないと、次第に追い込まれてしまうことになる。

その典型例を示しておこう。

小学校5年生の担任である50代の女性教師は、学級の荒れと保護者からの攻撃に苦しんでいた。学級の荒れは、1人の多動傾向をもつ攻撃的な児童が中心となって引き起こされていた。児童は昨年の学級担任も休職に追い込まれていたことから「おまえも、教師辞めたいのか。病気になるぞ。○○みたいに」と担任を威嚇してきた。これに対して、教師が厳しく叱責すると、「人権無視だ」「暴力教師」「クビになるぞ」などと言ってくる。この児童の指示命令に、ほかの児童は逆らうことができない。

教師が本児を厳しく叱責した翌日、母親から校長と教育委員会に電話がかかってきた。

「うちの子は、すごく傷ついていて、もう学校には行きたくないと言っています。あの先生の指導には、問題があります」

虚言癖のあるこの児童の発言に母親はいいように振り回された。母親は、場合によっては、署名運動を行うとまで宣言した(児童の身体にはいくつかの傷跡が絶えずあり、虚言の背景には、おそらく、児童の母親による虐待に近い暴力的な関わりがあると推測された)。

○事なかれで頼りにならない管理職

校長は、教育委員会からの連絡があったこともあり、担任と連絡を取り、事実関係を確認した。しかし、事なかれ主義の校長はその後、「とにかく保護者とはいい関係を築くように」とだけ指示をして、その後は、何の具体的なアドバイスをくれなければ、保護者対応を引き受けようともしてくれなかった。

母親は家庭でも子どもの前で教師の非難をしていた。児童は「お母さんも、先生は嘘つきだから、言うことなんか、きかなくてもいいって言ってた!」と学級で騒ぎ、混乱はますます大きくなっていった。他の児童の保護者からも「学級が荒れていて、勉強できないと言っています。うちの子の成績が落ちたらどうしてくれるんですか!」と非難されるようになった。

こうした現状を見た校長からは、まず担任を降りて、翌年は別の学校に異動希望を出すように促された。学級の荒れへの対応に疲れきり、保護者からの攻撃で自尊心を切り裂かれきっていたこの教師は、頼りにしていた管理職から突き放されたことを直接のきっかけに休職しはじめた。

○「突き放された」が大きなダメージに

この例でも分かるように、教師が追い込まれていくときには、しばしば(1)多忙さ(2)学級経営、生徒指導の困難(3)保護者対応の難しさ(4)同僚や管理職との人間関係の難しさ――といった、いくつもの要因が多重的に重なっている場合が多い。

このうち、「学級経営や生徒指導の困難」と「保護者対応の難しさ」は分かちがたい問題だ。

教師の厳しい叱責に耐えられない「傷つきやすい子ども」が、「あの先生がこわいから、もう学校に行きたくない」と言いはじめたとしよう。すると、それを聞いた保護者から「担任が子どもを不登校に追いやるとは何事か」とクレームが発せられる。

「傷つきやすい子ども」の背景には、「傷つきやすい保護者」が存在しており、その傷つきやすさは激しい攻撃性へと転化して、教師を追い詰めていくのである。

こうしたつらい状態にあるとき、同僚や管理職から突き放されてしまったと感じることがあれば、それは大きなダメージになる。逆に、同僚や管理職との間に支え合える関係をつくることがあれば、なんとか乗り切れることも少なくない。

職場の働き心地を左右する最大の要因が、職場の人間関係である点は、企業も学校現場も同じである。すなわち、教師同士の「支え合える関係づくり」こそが、追いつめられた教師が逆境を乗り越えて、その後の教師人生を歩むことができるかどうかのカギを握っているといっても、間違いないであろう。