【連載】校長のパフォーマンス 第59回 トップの思いを全員に語る

教育創造研究センター所長 髙階玲治

ベネッセの最高顧問である福武総一郎氏から年賀状をいただいた。ニュージーランド(NZ)に移住して6年になるという。賀状は私的なことだが、文章を引用させていただく。

「NZは車社会ですが、全国にトンネルは3つしかありません。護岸工事をしている川は1つもありません。食料自給率300%、エネルギー自給率100%、勿論原子力発電もありません。NZは〝国民を養うとは何をすべきか〟を分かっている国だと思います」。

数年前NZを旅したことがあるが、確かに自然に恵まれた豊かな国という印象が強かった。食べ物もおいしかった。現地で働く日本人にもたくさん出会った。

福武氏はそんなNZで余生を静かに送ろうとしているのではない。社長時代、社名を福武書店から「Benesse(良く生きる)」に変えたが、社運のみでなく、国家レベルの豊かさや幸せを考えられていた。今もそのようである。

実は私が国研を退職し、ベネッセに勤務するようになって驚いたことがあった。

それは月の初めの月曜日に朝会があって、1時間ほど毎回社長の訓話があったことである。本社は岡山県にあったから、時にスクリーンでの講話であるが、新しい経営方針や社会的な状況など、社長の思いを伝え、社員の意識を高め、鼓舞する働きがあった。会社全体が講話によって揺れ動くような印象であって、その度に一体感を感じた。

その体験は新鮮で、会社の内情がよく分かり、また組織内の共通の話題になったりした。ただ、会社の方針が一貫していたわけではない。提案の形が数カ月後に修正されることもままみられた。トップは社会の動きに対して、絶えずベターな戦略を考えるという、その表れである。

組織のトップが全員に対して自分の思いを毎月のように語るという体制は、国研や道研時代にはなかったことである。大学の教授会の印象も薄い。

企業と教育関係機関とでは、トップを含めて経営意識が全く異なっているのではないか。その違いは鮮明であるように思えた。

だが、トップが組織成員に自分の思いを語ることは特別なことであろうか。学校が変革期の教育状況を迎えようとしているとき、新しい組織体制づくりのための必須の課題ではないか。

これからの教員にとって必要なことは、単に自己の職務の範囲のみでなく、学校を取り巻く教育状況を的確に把握できる豊かな情報である。情報を共有することで、今何を考え、何を為すべきか、という近未来に向けた自己確立を図ろうとする。ただ、個々の教員は新しい情報の入手が難しい。そこで今日的な情報を入手しやすい校長が率先して教育を語り、教員を鼓舞し、組織体制を強固にすることが求められる。校長は語り部になるべきである。

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