【連載】クオリティ・スクールを目指す 第73回 学習に夢中になるフロー体験を

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

課題困難度とスキルの釣り合い

私が敬愛する辰野千壽先生(筑波大・上越教育大名誉教授)が亡くなられた。95歳であった。

以前、学校教育研究所理事長をされたとき、私を理事に招いてくれ、週に1度はお会いしていた。その辰野先生の最後の原稿が『図書教材新報』(1月25日付号、日本図書教材協会)に載っていた。「学習でフロー体験を」という興味深い文である。短いので全文を載せたいくらいであるが、フロー体験とは意識の流れで、例えば生徒が現在の学習活動に夢中になり、注意を集中している状態を指すという。

この状態は、現在の活動に夢中になって、どれだけ時間が過ぎたか忘れるほどで、その結果、学力が向上するから、学習指導ではフロー体験として重視されているという。

「このフロー体験は、課題のレベル(困難度)と学習者の学習スキルのレベルの釣り合いが保たれているときに起こる。課題のレベルが学習スキルを超えるときには、課題の要求に押され、心配、不安や悩みを感じ、学習スキルが課題のレベルを超えるときには、飽きや退屈を生じ、フロー体験は起こらない」

そこで、課題の困難度と生徒のスキルが釣り合えば、望ましい学習が楽しく成立するのであるから、レポートを書くこと、問題を討論すること、ワークシートを完成すること、明日のテストのために教材を復習することなどにおいて、両者の釣り合いを考えてフロー体験が起きるように学習を与えるべきだという。

「学校は、挑戦とフィードバックの機会を与え、フローの機会を多くする。フローを体験した生徒は、興味を育て、能力を伸長させるような課題や活動に挑戦することによって充足感を抱くようになる。したがって、学習指導では、生徒の能力・適性を考えて学習課題を与え、フロー体験を経験することが大事である」

辰野先生は、教育心理学・学習心理学が専門で、多くの著書を残されている。その最後の原稿に接したとき、先生自身がフロー体験を「わが事」として実践されていたのではないかと思われた。そして、最後まで子どもの学びについて絶えず考え続けていて、その結果が今回の文になったと考える。

最後の著書は『学習意欲を高める12の方法』(図書文化社)である。平成21年の発刊であるから、87歳ではないか。驚きである。

40年以上前、当時、東京教育大で校長・指導主事研修会が4週間の日程であり、その折、多くの講座の中で辰野先生のが一番面白く、有意義であった。私は北海道教育大学附属函館小学校の教員をしていて、その講義の一部を実践したところ、学級の子どもが、親が驚くほど全員よく勉強するようになった。その意味でも、先生への感謝は尽きない。いつも柔和で、話好きで、楽しい思い出が残っている。

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