【連載】教師のための人間関係づくり 第11回 保護者とのトラブル回避法

明治大学文学部教授 教師を支える会代表 諸富祥彦

 

第11回 保護者とのトラブル回避法
○保護者は「サービスの受益者」?

最近、保護者とのトラブルで悩む先生が増えています。今や、子どものこと以上に保護者対応が、現場教師の悩みのタネとなっているのです。

背景には、保護者の意識の変化があります。2000年代前半のころから、保護者のなかに「学校は教育サービスの提供機関である。私たちはサービスの受益者だ」という意識が芽生えてきました。そして、「だとすれば、サービス内容(授業や生徒指導などにおける教師の力量や態度)が悪ければ、文句をいうのは当たり前のことだ」という意識が育まれてきたのです。

学校は「教育サービスの提供者」、保護者は「サービスを受ける側」と分けてしまうことに私は抵抗があります。保護者と教師は、本来、共に子どもを育てていく「パートナー」である、と私は思っているからです。しかし、なかには、「サービスの受益者」として不満を抱き、文句を言ってくる保護者がいるのも、事実です。

では、こうした保護者との間に「ねじれたトラブル」を抱え込んでしまわないようにするには、どうすればいいのでしょうか。まず押さえておくべきは、保護者の側の意識です。教師の指導法などについてクレームをつけてくる保護者は多くの場合、「うちの子や私は、もっと大切にされていいはずなのに、してもらえていない」という不遇感を抱いています。

まずは、これを受け止めることが大切です。すなわちこうした保護者が抱いているニーズは、「大切な存在として、リスペクトされること」。言葉を変えていえば、「おもてなしの心」での対応が求められるのです。

○リスペクトしてお願いを

具体的には、どうしたらいいでしょうか。例えば暑い時季に。

(1)急な来訪でも門前払いはせず、空調の効いた居心地のよい部屋にお通しする。
(2)クールダウンのために、冷たい飲み物と甘いお菓子を用意する。
(3)1人ではなく、ほかの教師と複数で対応する。
(4)正論で説得したり論破したりしようとせず、話をよくお聞きし、感情を受け止める。
(5)保護者にしてほしいことがある場合、指示や説得はしない。アドラー心理学の「勇気づけ」の要領で、相手をリスペクトし、「○○してくださると、ありがたいのですけれど」と、お願いをする。

このような点に配慮しつつ、保護者の方が「私は、学校に大切に扱われている」という意識を持ってもらうことが重要です。大切なのは、いくら相手が間違えていると思っても、頭ごなしに否定などしないことです。

ある若手教師が、見事に対応してトラブルに発展するのを未然に防ぐことに成功した事例があります。

ある父親は、子どもの自作自演のうそを信じ込み、「うちの子がいじめられているそうじゃないか。訴えるぞ!」と怒鳴り込んできました。これに対して担任教師は、父親の前で、子どもにていねいに質問していきました。

「この点は、どうなのかな」「いつ何があったのかな」「それに関わっていたのは、誰と誰なのかな」「そのあと、どんなことが起きたのかな」
このような質問をしていくうちに、子どもの話に含まれていた矛盾点が、自ずとあらわになってきたのです。

○落ち着いた姿勢で対応する

保護者とのトラブルを未然に防ぐためには、このような落ち着いた冷静な対応法が必要です。もしこのとき、教師のほうから「お父さん、これ、お子さんのうそじゃないですか」などと指摘したり、「何を根拠にそう言ってるんですか!」などと迫ったりしていたとしたら、おそらく父親のほうとしても、「後には引けない気持ち」になって逆上し、問題が大きくなっていたことでしょう。

教師と保護者のトラブルの多くは、追い詰められた側が、「いまさら、引くに引けない気持ち」になってヒートアップしていくことによって困難化していきます。「ヒートアップしない」「追い詰めたりしない」冷静で、落ち着いた姿勢での対応が求められます。

そのためにも、難しそうな方と会うときは、その前に、まずは「鼻で5秒で吸って、口から15秒でゆっくり吐く呼吸」を2分間でいいので行って、こころの落ち着きを整えてから、会うようにしましょう。