【連載】教育現場の課題をひもとく チーム学校をどう実現するか① 遅くまでの仕事が学校の現実

帝京大学教職大学院教授 元全国連合小学校長会長 向山行雄

 

1.ある研修会での反応

「チーム学校」の要諦は、疲弊した学校の立て直しにある。
日本の教師の多忙さは限界まで来ている。それを少しでも緩和させなければならない。
学校のスリム化を図るための戦略は、勤務時間縮減である。

筆者が校長をしていた東京都中央区立泰明小学校では、スタッフ20人が1時間の会議をすると10万円の人件費がかる。もしA先生の遅刻のために会議が6分遅れたら、A先生はチームに1万円の人件費の損失を与えたことになる。したがって、A先生は全員に500円のラーメンをおごらなくてはいけない。
体育主任のB先生による運動会提案がお粗末で、会議が12分間空転した。B先生はチームに2万円の損失を与えたので、全員に1000円のチャーシューメンをおごって「損害」弁償する。

このような例え話をして、校内の時間コスト意識を醸成する。そして、会議の精選や時間の短縮を図る必要がある。
E区の教務主任の研修会でこの話をした。終了後の感想用紙には、多くの教務主任が自分の学校で、「時間コスト意識の醸成」に取り組みたいと書いていた。学校の教育活動の牽引役である教務主任は、学校組織の中で最も忙しい教員である。自分自身の忙しさと学校全体の忙しさを痛感している。だから、筆者のこの話に共感した。

2.チーム学校の背景

チーム学校を提言した背景には、学校の多忙な実態の改善がある。
中教審答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策」には、「チームとしての学校」が求められる背景として次の4点をあげている。
▽教育活動のさらなる充実の必要性
▽学習指導要領改訂の理念を実現するための組織の在り方
▽複雑化・多様化した課題
▽わが国の学校や勤務実態

このように、背景には、既存の学校体制では今後の諸課題に対応できないという危機感がある。
教職大学院の卒業生に尋ねると、どこの学校でも、夜遅くまで仕事をしている実態が明らかになる。かつて、一部の研究熱心な学校に見られた「提灯学校」はもはや、どこでも当たり前になっている。

3.多忙感に包まれる教師

若手教師は、事務的な仕事が遅れがちになる。それにもかかわらず、早朝練習や土・日曜日の対外試合にも駆り出される。
保護者対応も深刻である。子どもの指導を巡り、保護者とトラブルになるケースも頻発する。解決が長引けば、当事者の心労がかさむ。
「忙しい」という文字は「心を亡くす」と書く。若手教師は日々の業務に追われ、文字通り心を亡くしている。恋人と映画館や美術館に行く時間もままならない。ひとり旅に出て旅愁を感じるゆとりもない。

本来なら、若手教師こそ、子どもと向き合う機会や教材研究の時間を確保すべきである。教師としての伸び盛りの時代に、読書を通し、人と出会い、さまざまな体験を通して豊かな人間性を涵養する。それが教師生活のライフステージの上でも肝要だ。

しかし、限界にまできた日常の多忙さが、若手教師をしてそうさせてはくれない。
私は各地の研修会に出かける。講演のなかで、若手教師を指名して問答する。そのやりとりの中で、かたい話もやわらかい話もするが、基礎的な知識や体験が不足していると感じる場面が多くある。

「ジアタマ」は決して悪くないのに、人間としての幅が貧弱なのは忙しさゆえの体験不足に直接的原因がある。忙しさゆえにネットやスマホという手軽な世界に回避するという間接的原因がある。多忙感からの解放が必要である。

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