【連載】教育現場の課題をひもとく 問題行動の現状と課題―いじめ② いじめ防止対策推進法の理解

神田外語大学教授 嶋﨑政男

 

平成25年2月、教育再生実行会議は「社会総がかりでいじめに対峙していくための法律」の制定を提唱した。これを受け、超党派による法案が提出され、同年6月成立、9月に施行された。これが「いじめ防止対策推進法」である。

いじめ問題の分析・検証が不十分な上、対応策を円滑に推進する条件が整っていない状況下での法律の制定を、拙速と非難する声がある。実際に条文をつぶさに検証すると、疑念を生じさせるものもある。

しかし、いじめを主因とする悲惨な自死が続く中で、いじめの防止・早期発見・適切かつ迅速な対処は、学校に課せられた重大な責務である。教育に関わる全ての者が本法への理解を深め、「脱・いじめ」に向けて真摯に努力することが求められる。

本法が規定する学校の具体的責務は、「学校いじめ防止基本方針」の策定(第13条)、いじめの防止(第15条)、早期発見のための措置(第16条)、教職員対象のいじめの防止等のための対策に関する資質向上の措置(第18条2項)、インターネットを通じて行われるいじめに対する対策の推進(第19条)、いじめの防止等の対策のための組織設置(第22条)、いじめに対する措置(第23条)、いじめを行っている児童等への懲戒(第25条)、重大事態への対処(第28条)――等である。

「学校いじめ防止基本方針」の策定に当たっては、全教職員がこれらの条文を熟読玩味し、十分理解を深める必要がある。ところが、本法の理念や内容が十分周知されていないのではないかと危惧を抱くことがある。

一例を挙げる。第2条に「いじめの定義」がある。平成18年の定義変更の折には委員として参加していたので、この条文に最初に目を通したとき「大きな変更なし」との認識で読み飛ばしてしまった。

同様の早とちりをした方が多かったと思われる。1つは「心理的物理的攻撃」の箇所である。研修会に招いていただいた折に、「法では『攻撃』はどう変わりましたか」と問う場合が多いが、「行為」という正答は数人である。法でいう「行為」には無視等の「不作為」も読み込める解釈である点に留意したい。

2点目は、「心身の苦痛を感じている」の部分である。これまでの定義にも同様の文言があったため、見過ごされがちだが、法では「当該行為の対象となった児童等が」と、いじめの範囲を被害児童等の主観的判断に依拠している。加害意識がなくとも「いじめ」に該当するケースの増加が懸念される。

いじめへの対処において、当事者の支援・指導より、保護者への対応に困難を感じる学校は少なくない。残念なことだが、本法はそこまで踏み込んでいない。一部記述がみられるが、学校にとって厳しいものである。

法第9条「保護者の責務等」では「保護者は、子の教育について第一義的責任を有する」と明記されているが、第4項では「家庭教育の自主性が尊重されるべきことに変更を加えるものと解し」てはいけないとし、第3項「保護者は(略)学校が講ずるいじめ防止等のための措置に協力するよう努める」についても、「学校の責任を軽減するものと解してはならない」と「後書き」が付く。本法成立過程では、「保護者の責務を厳しく規定すると、学校が保護者の責任を追及し十分な対応をしなくなる」「損害賠償請求訴訟で、賠償額が減額されるおそれがある」等の意見があったという。「学校不信極まれり」の口惜しさだ。

さらに、学校には難題が課せられている。第23条にある「いじめを受けた児童等の保護者といじめを行った児童等の保護者との間で争いが起きることのないよう(略)必要な措置を講ずるものとする」との責務である。学校としては当然必要な配慮事項であるが、「仲介役」「調停役」をも想定しているのだとすれば、「公正・中立」の立場を堅持しなければならない学校にとっては厳しい規定である。