【連載】教育現場の課題をひもとく 問題行動の現状と課題―いじめ④ 法社会化期におけるいじめ対応

神田外語大学教授 嶋﨑政男

 

いじめに関わる書籍はゆうに200冊を超えるが、早期(昭和55年)に発行された書名の多くは、「いじめっ子」「いじめられっ子」が併記されたり、「弱い者」が冠されていた。

いじめ問題は、bully/victim problemsと英訳される。いじめられる者はvictim(犠牲者)なのである。一方、日本では、事故報告書に加害者・被害者の表示をためらう風潮がある。

校内暴力混在期と社会問題期が重複する時に出された「児童生徒の問題行動に関する検討会議緊急提言~いじめの問題の解決のためのアピール」(昭和60年6月)には、次のような基本認識が述べられている。

「児童生徒は、友人関係や集団生活の中で成長発達するものであり、友人間の問題の克服も、本来『子どもの世界』に託すべき部分が多い。しかしながら、今日の児童生徒間におけるいじめが極めて深刻な状況にあることにかんがみ、『子どもの世界』にあえて手をさしのべ(略)」。

本来「子どもに託す」ことだが、「あえて手をさしのべ」ようとの認識である。愛知県の中2自死事件直後に出された「『いじめ対策緊急会議』緊急アピール」(平成6年12月)では、「いじめの問題は学校・家庭・社会が総合的に取り組むべき問題」との認識の下、「社会で許されない行為は子どもでも許されないとの強い認識」をもつよう求めた。

「自殺予告学校テロ」が多発した平成8年に発出された文部省通知「いじめの問題に関する総合的な取組について」(平成8年7月)では、いじめる児童生徒の「別室指導」、出席停止措置、警察との連携強化等が盛り込まれ、教育的指導を前提にしながらも、コンプライアンスを意識した取り組みの重要性が強調された。

このように、数々の悲惨な児童生徒の自死事件を受け、法的対応の必要性への理解が深まっていったが、その対象はいじめる児童生徒より、いじめの助長・加担問題や隠蔽体質等を厳しく追及された学校・教育委員会に向けられた。

いじめ防止対策推進法の制定は、その象徴的な出来事であるが、学校に対しては努力規定ではなく「するものとする」で終わるものが多い。全教職員の確かな認識・知識が求められる。

第一に、いじめの訴えの増加に対する対応に長けなければならない。特に保護者からの訴えに対し、初期対応でのミスを防ぐことが大切である。

昇降口で「さよなら」と声をかけられた女児が、聞こえなかったため返答しなかったことから「いじめの加害者」として、「さよなら」と挨拶した女児の親から執拗に「いじめへの謝罪」を求められた事案がある。客観的事実はさよならの声が聞き取れなかったことだが、この点を強調するだけでは問題解決の見通しは開けない。「娘がかわいそう」という親の心理的事実の受容が優先されなければならない。

「いじめられたことが原因だった」として、「欠席日数を減らせ」「成績を上げろ」「転校費用を負担せよ」等の要求が寄せられる場合があるが、これも「心理的事実の受容・客観的事実の指導」の原則は変わらない。「ならぬことはならぬ」との毅然とした姿勢が大切である。

全教職員に、このような対応の基本を学ぶ必要がある。

第二に、正確な記録を残すことに努めなければならない。客観的事実を時系列・対象別に記録するには、「巻紙方式」がお勧めである。書き増しに容易に対応できる上、読み取りに便利である。予断や希望的観測等は排除し、事実を記述する。こうした研修も必要である。

第三に、当然これが最も大切なのだが、全校挙げての「脱いじめ」への取い組みを着実に実行することである。リスク・クライシス・ナレッジの各段階ごとに、学校(教員)・児童生徒・家庭や関係機関等の実践を記したマトリックスの作成がその第一歩となる。
(この稿おわり)