【連載】教育の落とし穴 子どもの安全・安心を考える ⑧ 苦悩を冷静な目でとらえる

名古屋大学大学院准教授 内田良

 

子供に対するハラスメントの全体像
子供に対するハラスメントの全体像

■コーチからの性的虐待

イギリスで、元プロサッカー選手が、少年時代にコーチから性的虐待を受けていたと告白し、話題を呼んでいる。

各種報道によると、現在43歳のアンディ・ウッドワード氏は、ジュニア・サッカーのチームに所属していた11歳から15歳のときに、コーチから性的な虐待を受けた。口外すれば、プロ選手にはなれないと脅された。氏はその後ずっと鬱や自殺の衝動に悩まされ続け、試合時にもパニック発作が襲ってきた。43歳までの人生は、台無しにされたという。

同氏はこの歳まで、被虐待の事実を公には語ってこなかった。だが、同じような被害者が声を上げられるようにと、自分の経験を公にする決心に至ったという。同氏はこの厳しい状況を”survive”したと表現する。たびたび自殺の衝動にかられながらも、ここまで生き延びてきたのだ。

■予断なく苦悩に向き合う

私がなぜこの話題を取り上げたかというと、子供はさまざまな場面で苦しみ、ときに自殺の衝動に駆られるのを、改めて考えたかったからだ。

子供の自殺が報道されると、私たちは直ちに「いじめ」を連想する。もちろん、いじめはそれを受けた子共に多大な苦悩をもたらし、それが自殺につながってしまう場合は大いにある。だがここで大事なのは、同時に予断なく他の可能性も検討する冷静さである。

自殺が起きたとき、例えば、教師を含む指導者、さらには保護者や家族からの「ハラスメント」(暴力、暴言、虐待)はなかったか。先述のウッドワード氏が、コーチからの性的虐待により、何度も自殺衝動に駆られたように、子供は大人からの加害に遭い、苦悩するケースもある。

私たちはそうした可能性をほとんど検討しないままに、いじめに着目しがちだ。子供の人間関係が問題だと決めつけて、大人のハラスメントから目をそらす。その子供がどのような苦悩を抱えていたのか。先入観にとらわれるずに向き合っていく必要がある。

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