【連載】校長を目指す教師のために 第9回 民主的な解決の深さを学ぶ

東京都千代田区立麹町中学校 工藤勇一

 

真に迫った模擬裁判
真に迫った模擬裁判

引き続き「協働の学び方」について述べる。今回は「模擬裁判」を取り上げた。

第6回でも述べたように「みんな違っていい」「みんな違っている」の価値観は、「協働の学び」を深めていくために最も優先する大原則である。そして、この原則を基盤に教育を進めていくことこそが、生徒を将来、民主的な国家の形成者として成長させていくことにつながっていくものと考える。

当校の「模擬裁判」はこの大原則の上に立つ重要な学習であり、毎年、日本大学法学部と日本法育研究会の専門的な協力を得て、第2・第3学年の全生徒合同で実施している。模擬裁判は実際の事件をもとに作成された教材を用いて裁判員裁判の形式で行われる。3年生の代表生徒約15人が裁判官や裁判員、被告人、証人役を務め、その他の全生徒が傍聴人役として参加し、公判から評議までの全てを生徒たちだけで進めていく。

事前に代表生徒たちは、本物の裁判を傍聴する体験なども行い、約2週間、専門家のさまざまな指導を受けることになる。

模擬裁判当日、被告人や証人への質疑応答や評議など、裁判官、裁判員にはほぼ台本はない。有罪・無罪ももちろん決まっていない。裁判員と裁判官は、それぞれの立場で考え、自らの意志で発言していく。加害者や被害者の母親役らの臨場感あふれる演技と発言に、裁判員たちは徐々に事件の背景や人物の心情を深く理解し、人を裁くことの重さをひしひしと感じ取っていくようになる。

会場の傍聴人(全生徒)も、次第に、自分の立場を裁判員に置き換えながら深く思考していく。生徒たちはまさに「対立」を目の当たりにし、「対立を解決する難しさ」を実感していく。

この学習を通して、ほとんどの生徒たちが「心情の理解」と「社会秩序の維持」との間でモラル的なジレンマを感じていった。また判決の結果が、単にこの裁判に留まらず、その後の社会の契約へも影響をもたらす点を理解できた。さらには個人の権利を尊重する際には全ての人の最善を考えて対立を解決すべきだという民主的社会の有りようまで理解した生徒も見られた。

模擬裁判は「深い他者意識こそが深い学びを実現する」のを強く実感できる活動である。