【連載】校長のパフォーマンス 第70回 「常住戦場、経営は戦いです」

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

学校経営を考える場合、企業経営者のスピリットに学ぶことは貴重である。組織を動かすその要諦を体得した的確な判断など、具体的に示してくれる場合が多いからである。

ただ、企業が直面している課題は学校経営とは全く異なっていて、倒産、買収、解雇、売却、共同など、想像を絶する対応がある。それでいてトップの語る経営理念には大きな魅力がある。

最近、信越化学工業(株)の金川千尋会長のインタビューを読んだ(『ダイヤモンド クォータリー』2016秋創刊号・非売品)。

金川氏は1990年に社長に就任し、2010年に会長となり、現在も続いている。90歳である。

同社は、塩化ビニル樹脂で世界のトップ企業であるが、社長や会長になれば、研究開発、製造、販売、調達、財務など、すべての経営に関与する。そうした経験を通して、人や組織の動かし方が練られていくという。金川会長独自の人材育成の要諦がある。

それは有名な山本五十六連合艦隊司令長官の言葉だという。「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」。そして次のように語っている。

「山本長官から学んだ最大の教訓は、先を見ながら短中長期の計画を立てつつ、刻々と変わる情勢を見極めながらみずからの考えを修正し、必要ならば前言を修正する勇気を持つことです。多くの人は、いったん計画を立てるとそれにこだわる人が多いのですが、計画の前提となる状況が変われば、計画自体も常に変えていかなければなりません」

執務室には、山本長官と小田切元社長の写真を飾り、さらに、山本長官の「常住戦場」の言葉を座右の銘にしているという。「経営は戦いです」と語る。

私も企業に勤務したことがあるので、企業経営者が自らの職務を「戦い」と考えていることはよくわかる。学校経営とは全く異なる企業魂と言えるものである。

だが、企業のトップが考える組織のリーダーシップは大きく異なるものであろうか。金川会長は「経営者に必要な資質」を聞かれて、大事なのは、「執行能力」「決断力」「判断力」「先見性」だという。

執行能力や決断力は実際に事業をやってみなければ会得できないから、経験と勉強と努力によって高めることができるという。一方、判断力と先見性は生まれ持った素質によるところが大きいとする。確かに大企業ではそうであろう。

そして、5つ目に挙げている資質は「誠実さと温かさ」である。どれだけ仕事ができる人でも、誠実で信頼される人柄でなければ人はついてこないという。

優れた企業経営者に学ぶべきは、常に危機的状況にありながら、組織=人の動きをよりよい方向で進める行動力の指針を見いだせる大切さである。