【連載】校長のパフォーマンス 第73回 「やり抜く力」は才能を超える

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

今、会社員の間で『やり抜く力(GRIT)』(ダイヤモンド社、2016)がよく読まれているという。ビジネス書とは少し違って、成功をもたらす究極の能力を示した図書である。

著書はアメリカの心理学者アンジェラ・ダックワースで、エビデンスに基づく説得力のある平易な語り口で読む者を納得させる。

この著書の最も大きな魅力は、これまで誰もが何かを成し遂げられなかったのは「才能がない」からだと信じこまされてきたが、その考えを見事に打ち砕いてみせたことである。

例えば、「才能と努力のどちらが大切か」と問えば「努力」と答える割合が2倍高いが、一流のバイオリニストが優れた技能を見せると「生まれつきの才能」に恵まれていると評価する。

しかし、水泳選手や演奏家など多くの優れたプレーヤーに共通しているのは、「当たり前のこと」をしているという事実である。「最高のパフォーマンスは、無数の小さなスキルや行動を積み重ねた結果として生み出される」といい、「それは本人が意識的に習得する数々のスキルや、試行錯誤するなかで見出した方法などが、周到な訓練によって叩き込まれ、習慣となり、やがて一体化したものなのだ」という社会学者の言葉を紹介している。

またダックワースは、「やり抜く力」を教育の場でも重要と考えて、子供の頃の「ほめられ方」が一生を左右するとして、「成長思考」「やり抜く力」を伸ばす言葉かけが大切だという。そして「やり抜く力」は教育できると断定する。

例えば、「能力があるんだから続けなさい」「最後までやる習慣を身につける」「厳しくしつつも温かく支える」「自分で決められる感覚を持たせる」「親は愛情深くてどっしり構えている」「自尊心が自分ならできるという自信につながる」「自由を与えると同時に限度を示す」などである。

そして注目されるのは、「課外活動」は絶対すべし、という提言である。課外活動こそは子供たちが熱中し、「大変」だけれど「楽しい」活動である。教科の学習では味わえないチャレンジが行われる。最後まで「やり通す」ことで、「やり抜く力」が形成される。また「やり抜く力」の強い集団の一員になることで、さらに自分が磨かれるという。

この書は単なる啓発書ではない。科学では「賢明な子育て」の答えは出ている、と述べているように、主張を裏付ける科学的根拠に基づいている。その基本は「努力の大切さ」である。「やり抜く力」は才能を強化し、才能を超える。

今、わが国の教育は「学びに向かう力」の方向に羅針盤を定めているが、「GRIT」の考えは、その基盤を考えるうえでも重要な課題であるといえる。この図書の翻訳された意義は極めて大きいであろう。

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