校長のパフォーマンス(77)なぜヒロシマを訪ねるのか

eye-catch_1024-768_takashina-performance教育創造研究センター所長 髙階玲治

昨年5月、アメリカの大統領として初めてバラク・オバマが広島で演説した。原爆が投下されて71年が過ぎていた。

アメリカの大統領が広島を訪問することは米国内でも批判が大きかった。それをあえて実現したことで、オバマの広島演説が極めて注目されたのは周知のことである。

オバマは何度も「なぜヒロシマを訪れるのか」という言葉を繰り返した。戦争の被災地は世界中に至る所にみられる。その多くは風化し、訪れる人も絶えている例が多い。その中で、特に広島を訪れる意味を問うたのである。

原爆という、1発の閃光によって10万人を超える日本人の男女や子供たち、数千人以上の朝鮮半島出身の人々、捕虜となっていた12人のアメリカ人が死んだ。

その人たちを追悼し、なぜかくも悲惨な状況が、広島のみでなく長崎でも起きたかを考えたいためだとオバマはいう。

人間の歴史を考えれば、過去において残虐な戦争行為が数多くみられた。それらはただ忘れられて、第2次世界大戦では6千万人もの人々が亡くなっている。しかし、そうした悲惨な戦争状況の中でも『キノコ雲』の映像は、人間が抱える根本的な矛盾を鮮明にするといい、「私たちの思想、想像力、言語、道具を作る能力、人間を自然から引き離し、自分の思いどおりに自然を変える能力が、比類ない破壊力をもたらす力を私たちに与えた」という。そして、「暴力を正当化する術を身に付けることは非常に容易」だという。

そこで原子の分裂を可能にした科学の革命に対して、倫理的な革命が必要だという。

なぜ、ヒロシマを訪れるのか。この場所において原爆投下の一瞬を想像し、現状を変えるために、倫理的想像力に火をつける。

あの運命の日以来、日米両国は同盟を結び、友情を育み、戦争で得る以上のはるか大きなものを手に入れることができた。欧州諸国は通商と民主主義の連合を築いた。国際社会は戦争を回避し、核兵器の制限・廃止につながる機関や条約を制定している。

オバマは子供たちに、戦争の可能性を低下させ、残虐行為を受け入れがたくさせる物語を伝えたいという。「広島と長崎は、核戦争の夜明けではなく、私たち自身が倫理的に目覚めることの始まりになる」と結んでいる。

世界の現状は、戦争やテロの脅威に脅かされている。第1次世界大戦が終了後、世界各地でおきた戦争や紛争、テロ行為は数えきれないほど多い。その間、幸いわが国は平和を維持し続けてきた。

広島、長崎は戦争の悲惨さを学ぶだけでなく、オバマのいう平和を維持することの物語を考える場として、祈りとともに風化させないことを改めて強くかみしめたい。人々が平和を祈る場として、いつまでも。

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