学校経営を効果的に~「学習する組織」の理論でやってみよう(3)「メンタル・モデル」に気づく

eye-catch_1024-768_yonezawa_fin横浜国立大学教授 米澤 利明

「金づちで釘を打つことで成功した人は、そのあと、何を見ても釘に見え、金づちを振り回す」。 こんな笑い話を聞いたことがあるだろうか? なんだか笑うに笑えない笑い話でもある。「金づちと釘」の成功体験が強いと、「出ているものはとにかく打てばよいのだ」という思い込みが生まれ、自分でも気付かずに、「何でも打つ」という考え方・行動を取ってしまうというのだ。

この話は、ドネラ・H・メドウズ『システム思考をはじめてみよう』という書籍の、枝廣淳子氏のまえがきで紹介されている。わが国の学校にもこれに似たことはないだろうか?

明治以降、日本の近代化においては、欧米先進諸国のさまざまな科学や文化の知識を移入することが最重要課題であり、それによって今日の日本の発展がもたらされたといっても過言ではない。大きな成功体験である。しかし、そのことで「学力とは知識の習得量とその再生の正確性である」という固定的な学力観が形成されてしまったともいえるだろう。そして、誰もが学校教育でこの学力観を体験、経験しているがために、明治以降から続いてきている固定観念からなかなか抜け出せない。

教育学者の高木展郎氏は、これを「原体験主義の教育観」と呼び、学校教育で「主体的・対話的で深い学び」の実現を難しくする一つの原因であると指摘している。実はこれこそが、「学習する組織」のディシプリンの一つ「メンタル・モデル」であり、まずはこれに気付き、そこから自由になることから、新たな変化が生まれていく。

さて、今、多くの学校で「主体的・対話的で深い学び」の具現化を目指し、授業改善の取り組みが盛んに行われている。これは、これまで通りの「知識の習得と再生主体の授業」が通用しない時代になってきたことを多くの学校が感じ、変わろうとしている証でもあろう。

しかし、どんなにアクティブ・ラーニングの手法やツールを学んだとしても、いくらグループワーク主体の授業に変えてはみても、自分たちの固定的な学力観に対する無意識の思い込み、すなわち「メンタル・モデル」に気付き、それを変えようとしない限り、「昔ながらの考え方で新しいツールを手にしただけ」「授業方法を変えただけ」になってしまう。結果として、「深い思考力」を育成することはできないだろう。

この「メンタル・モデル」に気付くためには、学校が組織としてシステム思考を行うことである。システム思考とは、物事の「つながり」を明示化し、とらわれていた思い込みを超えて本質を見いだす思考法である。

きちんと意識化していなかった「つながり」に気付くこと、それを明示的に表すことで初めて、学校として効果的な対応を考えることができるのである。