「学び」とは何か― 認知科学からの視座 ― (4)スキーマの功罪

eye-catch_1024-768_imai_fin慶應義塾大学教授 今井 むつみ

前回、何かを理解し、学ぶためには、スキーマで行間を埋める必要があると述べた。行間を埋める他にも、スキーマには大事な役割がある。それは現在自分が置かれている状況で何が大事かを判断し、情報を取捨選択することである。

目の前にある状況には、非常に多くの情報がある。多くの人が、それぞれさまざまな服装をし、持ち物を持っており、絶えず視野に入っては消えていく。新聞を読んだり、人の話を聴いたりするときも、そこで使われた単語全部、文章全部を記憶することはとてもできない。

実際、私たちは見たり聴いたりした情報のほとんどを記憶していない。500円硬貨の実物を見ずに正確に描ける人はほとんどいない。硬貨は毎日何回も見ているはずだが、そこに描いてある図柄にはほとんど注意を向けないからだ。

人は、注意を向けないものには、何度見ても正確に記憶することがない。何が大事な情報であるかを見極め、注意を向けるか向けないかを決めるのは、スキーマである。

もし授業の内容について、子供が誤ったスキーマを持っていたら、何が起こるか。その内容を理解する上で大事な情報がザルに流された水のように流れ去ってしまうかもしれない。

スキーマはまた、入ってきた情報をスキーマに沿う形で定着させる。スキーマが誤っていると、理解もゆがめられてしまう。

地球が球形で、太陽の周りを回っているということは、子供にとってあまりピンとこない。夕方になったら太陽はなくなり、月が姿を現すという自分の体験と合わないからだ。ある研究者は子供に地球の絵を描かせた。多くの子供は円を描いた。しかしその後のインタビューで、彼らは地球を丸くて平たい、パンケーキのようなものと思っていたことが判明した。自分の生活空間では地面は平らである。球形のボールの上にモノを置いても滑り落ちてしまうが、自分たちは地面から滑り落ちたりしない。「地球は丸い」という外から教えられた情報と、日常生活からつくり上げた地球についてのスキーマのつじつまを合わせるため、「ホットケーキモデル」を創り出しているのである。

誤ったスキーマは概念のさまざまな分野に散見される。例えば「動いている物体は初速を保ちながら動き続ける」というのが、物体の運動の原則だが、物理の授業を高校や大学で受けた成人でさえ、外からの力が加わり続けることで物体は運動し続け、力が減衰して消滅したときに物体の運動は止まるという、誤ったスキーマを持つ人が多い。

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