「学び」とは何か― 認知科学からの視座 ― (5)誤ったスキーマ(思い込み)の克服は難しい

eye-catch_1024-768_imai_fin慶應義塾大学教授 今井 むつみ

人は、見知らぬ情報を自分の知っていることに引き寄せ、それによって理解しようとする。

その知識の枠組みがスキーマだと述べた。もう少し詳しくいうと、あること(出来事、事象、物事など)について説明する枠組みであり、熟慮によって吟味を重ねて作られたものではなく、自分の経験に基づき、世界を直観的かつ素朴に捉えたものである。信念に近い。

誤ったスキーマのフィルターを通してしまうと、教科書の説明もスキーマに沿うように取捨選択されたり、ゆがめられたりし、子供の理解のつまずきの原因になる。つまずきを解きほぐすには、スキーマを修正させなければならない。

しかし、あることに関して、自分の経験に基づいて直観的につくり上げた説明の枠組み(信念)を壊すことは、非常に困難である。

認知科学の研究は、スキーマは教師が正解を教えても修正されず、学習者が自分のスキーマの穴に気付いて新しいスキーマを求めるときにしか起こらないことを示している。

この問題に対し、教師がしなければならないことは三つある。

まず、子供がどのようなスキーマを持って問題に向かっているかをきちんと把握することである。例えば、子供は液体の比重の問題でよくつまずくが、これは、「目に見えないモノは重さを持たない」というスキーマを持っているからかもしれない。「食塩20グラムを水1リットルに溶かしたら、何%の食塩水ができるか」と聞かれても、そもそも塩は溶けて重さもなくなっていると考えている子供には、意味をなさない問いである。

第二にしなければならないのは、誤ったスキーマを持つ特定の分野に関して、自分のスキーマがおかしいことに自分で気付くような工夫をすることである。先ほどの液体の比重の例なら、食塩水の重さが水の重さではなく、水と食塩の重さを足した分になっていること、さらに食塩水を蒸発させると食塩が残ることを、子供に体験させ、一連の出来事を説明させることなどは有効だろう。このとき、子供が自分で説明するという行為が重要であり、受動的に見ていただけでは、誤ったスキーマが目の前の経験を見えなくしてしまう可能性が高い。

第三に――これが最も大事なのだが――、子供が自分の素朴なスキーマを振り返り、自らそこに矛盾がないか、考える習慣を付けることである。これが「批判的思考」である。

次回はこの、批判的思考について考えていく。