「学び」とは何か― 認知科学からの視座 ― (7)直観的思考と批判的思考

eye-catch_1024-768_imai_fin慶應義塾大学教授 今井 むつみ

批判的思考の反対は、直観的思考である。直観的思考というと、行き当たりばったりの思考というイメージを持つ人もいるかもしれない。実は、直観的思考には2種類ある。一つは、確かにコイントスのような根拠のない「賭け」である。

しかし、もう一つの直観は、卓越した熟達者が随所で見せる「ひらめき」である。どのような分野でも、超一流の熟達者となる条件は、瞬間的にその状況下での最適の解決法を考えることのできる「ひらめき力」を持つことだといってよい。

例えば、一流のプロサッカー選手は、どこにスペースがあり、どこにパスを出したら、自チームと相手チームの選手たちがどう動くか、ということを一瞬で予想し、最も望ましい結果をもたらせるようにパスを出す。

一流のプロ棋士は、次の一手を考えるときに、全ての可能性を考慮するのではない。最上の数手が直観的にひらめき、その中でどれが最善か「大局観」という直観で決めることが多い。

ひらめきは科学者にも必要である。例えば、ニュートンは、リンゴが木から落ちるという地球上の現象と、月は宇宙空間で地球に繋がれているわけでもないのに、地球の周りを回り続けているという宇宙での現象、この二つの一見関係ないことのように見える現象が、同じ原理で説明できると直観し、そこから万有引力の法則を発見した。

原子構造を発見したラザフォードも、周りの惑星の運動を支配する太陽のような中心的な存在が、原子にも存在するのではないかという直観から、原子の中心に正電荷を持った原子核があるという原子の構造モデルを考えついた。

批判的思考だけでは既存の理論の限界や問題は発見できても、それに代わる新たな理論は生まれない。誰も考えていなかった新しいアイデアを考えつくには、直観によるひらめきが必要である。

しかし、それは天から降ってくるものではなく、長年そのことを考え続けた結果起こる。一流のサッカー選手や将棋の棋士は、批判的思考を駆使して過去の試合を徹底的に吟味し、勉強する。批判的思考による絶え間ない訓練の積み重ねが一瞬の優れたひらめきを生むのである。

これはもちろん、スポーツや将棋に限らない。

自らの状態を振り返り、改善を要する課題を見つけていく批判的思考力と、新たなブレークスルーを産み出すための直観力。何かを学び、習熟し、熟達していく過程では、この二つの力をバランス良く養っていくことが必要である。

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