「学び」とは何か― 認知科学からの視座 ―(9)英語が難しい理由はこれだ

eye-catch_1024-768_imai_fin慶應義塾大学教授 今井 むつみ

この頃、アクティブ・ラーニングが注目され、暗記は意味のないことだという声をよく聞くようになった。本当にそうだろうか。この問題について考えてみたい。

単語帳にリストされてある英単語と日本語で対応する単語のリストを必死で暗記しても、英語で自由に話したり書いたりできるようにならない。なぜか。一つには、単語の知識が文法の知識と統合されていないと、文は作れないからである。語彙数を増やそうとするとき、それぞれの単語が英語の文法のどのような文脈で使われているかを考慮せず、単語だけを暗記しようとするから、その単語を使って文を作れないのである。

もう一つは、個々の英単語の意味の範囲が、訳語として当てられた日本語の単語と同じであるという想定で、覚えた単語を誤って一般化してしまうからである。この想定は、英語の習熟を妨げる、誤ったスキーマの典型といえよう。

このスキーマがあると、それぞれの英語の単語のさまざまな使い方や意味での文を読んだり聞いたりしても、日本語の訳語に合わない文例は全部スキーマのフィルターで取り除かれてしまい、合う用法しか記憶に残らない。

つまり、英語を自由に書いて話せるレベルに上達させようと思うなら、「英語の単語の範囲=日本語訳語の範囲」という、誤ったスキーマを崩さなければならないのである。

それには、第一に日本語と英語の単語の範囲の差を常に意識しながら、英語の文章を読んだり聞いたりして、自分で英語の単語の意味の範囲を探していき、さらに語彙全体の構造が日本語とどのように違うかを考えていくことが必要である。

しかし、人が自然に培ってきた誤ったスキーマを崩すのが容易でないのは、第5回ですでに述べた通りである。「英単語の範囲が日本語訳の単語の範囲と違う」ということを、いくら頭で知っていても、それぞれの単語で「どう違うのか」が分からなければ、結局、無意識に日本語スキーマを使ってしまう。言い換えれば、誤ったスキーマは身体に染みついているので、それを修正するには、身体に新たなスキーマを覚え込ませなければならない。

それには誤ったスキーマに戻らないように意識をしながら繰り返し単語を使う練習をするしかない。連載最終回となる次回では、知識を身体の一部にし、必要なときにすぐに使える生きた知識にするには、どういう学習の方法が有効かを考える。

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