変容する生徒指導―模索する学校現場―(4)個々のケアと特別指導 生徒と教員の信頼を築く

修正_eye-catch_yoshida弘前大学准教授 吉田 美穂

「大変、Aがガラスをたたき割った!」

学年の教員に連絡が入る。保健室で応急処置し、担任が病院に連れていく。別の教員はガラスを片付け、見ていた生徒に聞き取りをする。本人が手当てを終えて学校に戻る。そこから事実確認が始まる。

Aがガラスを割るのを見ていた生徒もおり、本人も否定しない。ゼロトレランスなら、特別指導のための事実確認はそれで十分だ。叱責の上で帰宅させ、会議で「器物損壊で規定により謹慎3日」などと決した後は、▽校長による申し渡し▽毎日の行動記録と反省文の提出▽その内容をみて謹慎解除――といった流れに乗せるだけだ。

だが、この高校は違った。事実確認はAが話しやすいようにと選ばれた教員の「手、大丈夫?」という心配の言葉から始まった。

A「うん、大丈夫……、ちょっと痛い」教員「心配したよ」A「……」教員「一体、どうしたの?」

ゆっくりした言葉かけ、気持ちをほぐすような雑談もはさみながら、教員は背景を探っていく。その上で、Aの行動は他人も危険にさらす行為であり、特別指導の対象になると伝え、帰宅させた。

Aの特別指導は「器物損壊」の前例に従い3日。ただし、自宅謹慎ではなく別室指導となった。Aには以前から不安定な言動があり、リストカットの痕もみられた。本人は教員の声かけをはぐらかし、カウンセリングも拒否していた。会議ではAの家庭状況や本人の話が報告され、▽指導期間を通してAの状況に合った課題で教員と対話する時間をつくる▽カウンセリングを受けさせる▽保護者周辺からも情報を収集する▽それらを踏まえて支援のためのケース会議を開く――ことが確認された。

「Aは今回、特別指導に引っかかってよかったね」。会議後の教員たちの会話である。その後、Aの家庭で虐待があることが明らかになり、児童相談所にもつなぐことになった。問題行動の後ろに、本人が一人で抱えきれない課題――不安定な家族関係、虐待、経済問題、対人関係の悩み、発達障害など――が潜んでいることがある。問題行動はSOSでもあるのだ。

この学校には、指導の公平性を保つため、事由に応じた指導日数の規定や教員の役割分担、会議の手順など、生徒指導の明確なシステムがある。生徒指導と教育相談は一体化し、指導内容は問題行動に至る背景を踏まえ、その都度柔軟に検討される。何より、特別指導期間は、生徒と教員の信頼関係が築かれる期間として意識されている。秩序維持のための特別指導と、個々の生徒のケアは、両立可能だ。

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