矯正教育最前線~学校との連携を模索して(9)塀の中の中学校

eye-catch_1024-768_yokoyama_fin監修 國學院大學名誉教授 横山實

松本少年刑務所には、日本で唯一の「塀の中の中学校」松本市立旭町中学校桐分校があります。桐分校の歴史は、戦後間もないころにさかのぼります。当時、収容中の受刑者のうち、約8割が義務教育の未修了者であり、その学力は著しく低い状況にありました。

そのような事態を憂慮した当時の所長を始めとする関係職員が、受刑者の学力の向上を図りました。「中学校卒業」という資格を与えるのは、更生意欲を喚起するとともに、社会復帰後の就労支援としても有用との観点から、長野県教育委員会、松本市教育委員会、旭町中学校に協力を求め、松本市議会の議決を経て、1955年4月、旭町中学校桐分校は産声を上げました。

2010年度からは、「聴講生制度」を導入し、中学校を卒業した者でも、桐分校で学ぶことができるようにするなど、その当時の時代の流れを反映させながら着実にその歴史を刻み、今日に至るまで754人(聴講生25人)の卒業生を輩出してきました。

桐分校では、全国の刑務所における選考を経て集まった受刑者を対象に、本校である旭町中学校の教諭、桐分校の教育指導員、松本少年刑務所の企画部門(教育)に所属する教員資格を持つ刑務官および教育専門官が教壇に上がます。一年を通じて授業を行っており、桐分校生は、1日7時間、所内に設けられた桐分校に登校して授業を受け、居室に戻った後も就寝まで3時間の自主学習を行う日々を過ごしています。

入学当初は小学校低学年レベルの学力の者でも、桐分校における1年間の学習を通じて、その学力だけでなく、表現力や論理的思考力がめざましく向上し、感情統制といった点においても大きな成長を遂げることから、桐分校は、「学ぶことの必要性」を実感できる場所となっています。

しかしながら、近年では義務教育未修了者の入学者のうち、日本人は皆無に等しく、外国籍の受刑者が入学することで存続している状況が続いており、開校当初は毎年20人以上の入学者がいた桐分校も、本年度の入学者は2人(聴講生1人を含む)と、今後もその規模が縮小していくことが予想されます。

受刑者の中には、義務教育を修了していても、非行、引きこもりなどにより不登校であった者が少なからず存在します。受刑者の学力を向上させるのは、本人の改善更生にとって欠かせない重要な要素であると考えます。刑務所内の「学びの場」である「塀の中の中学校」が、今の時代の要請にどのように応えていくべきか、模索しているところです。

(吉田弘毅・松本少年刑務所統括矯正処遇官)