複雑化する学校トラブル スクールロイヤーの役割(6)子供の最善の利益に向けた支援

学校からの相談事例には、児童生徒の問題行動や保護者対応での困難事例が多い。児童生徒の問題行動では▽他の児童生徒と教師に対する暴言・暴力や注意・指導をしても規律違反が減らない▽反抗的でうそが多い――など。保護者対応の相談では、▽精神上の課題や虚言、矛盾な挙動▽思考過程が不明瞭で情緒も不安定なために話し合いのらちが明かない▽学校攻撃が繰り返されて疲弊感や閉塞(へいそく)感で教員が押しつぶされそう――などである。いずれも困難な問題だが、解決に向けたモデルケースにこんな例え話がある。

注意欠陥多動性障害の疑いがある男子児童が、数人の児童らと集団下校していた際、転倒して膝を擦りむいて泣いたので同級生らが保健室に連れてきた。担任も駆け付け、養護教諭とけがの状態を確認した後問題がないと判断。児童に「男の子なのだから泣いてはいけない」と励まし、泣いている背中を「ポン」と押して帰宅させた。翌日、保護者から学校に「子供が先生にたたかれたと言っている。痛がる子供を叱りつけ無理やり帰宅させた。『体罰』『人権侵害』ではないか」「普段から担任には粗暴な振る舞いがみられると保護者から心配の声が上がっている。学校は問題を把握していたのに放置していた責任がある」と苦情が寄せられた。

校内研修でこの話をすると、多くの教員は「保護者・児童生徒対応の困難事例だ」と感想を述べた。ところがこのケースは、虐待環境も視野に入れて分析すると、また違った風景が見えてくることがあり、そこに解決の糸口がある。

児童の担任の言動を極端に被害的に捉える特徴に注目すると、児童への虐待環境が疑われる。そして、不安愁訴(しゅうそ)が保護者でなく児童から発信されたことは容易に想像され、保護者の情緒不安定さが刺激されて、学校攻撃につながっていると見立てられる。

児童虐待の視点で情報収集すると、児童が保育所に通っていた際に、夫婦間で激しい口論が再三あったことも分かった。児童の送迎時に母親が顔面を腫らしてきたことも発覚した。児童は配偶者間暴力を目撃し、少なくとも心理的虐待の被害にさらされていた。そのため、児童は他者の言動を被害的に捉えたり、集中力に欠けたりする、認知行動面での問題を抱えていた。担任教師は、弁護士の助言を得ながら、虐待被害児の特徴を踏まえて寄り添い、丁寧な対応を心掛けるようにした。以降、保護者の学校攻撃は収まったという。

学校での虐待防止の取り組みは「子供の生命・身体の安全を守る」視点だけではなく▽子供の成長・発達を妨げる虐待環境の改善▽大きな改善が困難でも子供に生じる悪影響を少しでも弱める――視点が不可欠だ。弁護士の視点で「子供の最善の利益」が図られるように教育現場への助言や支援をしていることを知ってほしい。

(弁護士 笠原麻央)