ダークペダゴジー ― 教師をむしばむ負の指導法(7)問題につながる要因

東京電機大学助教 山本 宏樹

ここまでダークペダゴジーの具体例を挙げてきたが、その要因について考えたい。例えば、同じような指導場面に置かれた場合、生徒を怒鳴りつける教師もいれば、生徒に根気強く対話を試みようとする人もいる。その差は何に起因するのか。

第一の要因に教育への信念が挙げられる。例えば、「生徒になめられたら終わり」という生徒不信ベースの教育信念を持つ教師は、生徒に対して最初からマウンティングを仕掛けて立場の違いをわきまえさせようとする傾向にある。

第二に過去の経験が挙げられる。体罰を受けて育った人は、そうでない人と比べて体罰を支持する傾向を持つと多くの調査で指摘されている。いじめられた経験を持つ教師が、過去のいじめ加害者と似た生徒に対して攻撃的になる「転移」という心理的現象も報告されている。

第三が知識だ。子供は相手を挑発したり、小さな問題を起こしたりして、相手の懐の深さや信頼性を測る「リミットテスト(試し行動)」を行うことがある。教師の優しい言葉掛けに耳を貸さず厳しい指導には従順になる権威主義的な子供、注意を引くために問題行動を起こし叱られることで懐くような愛着障害的特性を持つ子供も存在する。

そうした子供に対応するための教育学的知識を持たない教師は、強権的指導に引き寄せられがちである。

第四にストレスもある。周知の通り、高ストレスの状況で人は攻撃的になりやすくなる。嫌なことがあった場合や慢性的にいら立ちや空虚さを感じている場合には他者をコントロールして自己不全感を埋め合わせようとする欲望が高まる。

第五にパーソナリティ心理学の領域で、ダークテトラッド(闇の四角形)と呼ばれる人格特性が近年注目されている。

嫉妬や自己弁護をもたらすナルシシズム(自己愛)、他者操作や搾取をもたらすマキャベリズム(結果至上主義)、冷酷さや衝動性をもたらすサイコパシー(低共感性)、嗜虐(しぎゃく)趣味をもたらすサディズム(加虐性向)、この4属性を有する人は他者支配や攻撃などを起こしやすいとされる。

誤解のないように言えば、これらの人格特性は善用される場合もある。例えば、サイコパシー傾向の強い人が持ち前の冗舌さや対人的魅力を生かし、生徒から愛される教師になる場合もある。過酷な教育労働環境では、健全なナルシシズムが精神的健康を守る防波堤になる。

そもそも、これまでに語った教師要因は、いずれも教育労働環境や研修機会などの環境要因に左右されるのであって、個人に対する安易な責任転嫁は慎まねばならない。環境要因の重要性は次回以降に述べたい。

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