ダークペダゴジー ― 教師をむしばむ負の指導法(9)公教育の制度疲労が影響

東京電機大学助教 山本 宏樹

いじめを研究する明治大学の内藤朝雄准教授が重要な指摘をしている。学校で残酷ないじめをする生徒や暴力を振るう教師たちも、法の支配する一般社会では「おとなしい小市民」だと言うのである。閉鎖的で密着した人間関係が強制される学校空間では、心理状態を一般社会とは別の「モード」にスイッチさせる特殊な磁場が発生しやすいのだ。

学校の中でもダークペダゴジーが振るわれやすいのは、学級や部活動、生徒指導のような密室的環境である。職員室も密室的環境の一種であり、管理職やベテラン教師が子供を「しめる」方向にかじを切ると、服従圧力や同調圧力によって教職員集団全体に強権的態度が伝染し、ダークペダゴジーの温床が醸成される。過去の体罰死事件の中には、前任校で温厚だった教師が異動先の教職員集団への忠誠の証しとして体罰を振るい、生徒を死に至らしめたケースもある。

学校現場の恒常的な多忙も問題である。日本の教員は「世界一多忙」と言われる劣悪な労働環境に置かれている。文科省が2016年に実施した教員勤務実態調査によると、「過労死ライン」とされる週60時間労働超(残業時間月80時間超)の小学校教員が3割超、中学校教員が6割弱に上る。

少し古い話になるが、民間の教育機関による07年の調査では、小・中学校教員の平日の平均睡眠時間は5時間台で、疲弊して熱意を失うバーンアウトの危険域に達している教員も4割に上った。疲弊や焦燥・不安は、教員にとって致命的な欠点となる攻撃性や自己中心性、不寛容、形式主義的な志向性などを高める。これは、社会心理学の各種実験で明らかになっている。

「学力向上」や「規律維持」が厳命されている場合は、特に「足手まとい」の生徒に対してダークペダゴジーが解禁されやすくなる。

環境要因には、子供側の時代的な変化も影響する。2000年代に入るころには、子供の自宅での学習時間は大幅に減少し、中学校の長期欠席者は70年代と比べて5倍以上になったとのデータもある。極めて高度な情報化社会・消費社会を生きる現代の子供にとって、学校は時代遅れで、不合理な決まり事の多い憂鬱(ゆううつ)な場所だと感じられやすくなっている。

子供を引き付ける魅力や自発的に従わせる権威が学校教育から失われるほど、個々の教師の指導の正当性は疑われやすくなり、子供に規律を強制する権力、権力を誇示するための暴力が必要とされる。ダークペダゴジーの問題の背景には、こうした公教育の制度疲労という大前提がある。

前回の連載第8回で、個々の教師をダークペダゴジーに追い込む過酷な労働環境を、ある種の「教育公害」だと述べた。個別の事案では、指導の妥当性や責任の所在を巡って教師側と生徒側が対立することは避けがたい。だが、学校制度の病理構造が問題の根源にあることは忘れるべきでない。

関連記事