日本イエナプラン教育協会特別顧問 リヒテルズ 直子

イエナプラン創始者のペーターゼンが、イエナ大学で実験的な授業を始めた時のことだ。最初に取り組んだのは、床にくぎ付けされていた子どもたちの机を取り外し、小グループに分かれた際に座れるテーブルを用意したことだ。机上には生花を挿した小さな花瓶も置いた。個々の子どもの机にしまわれていた教材は共用棚にまとめ、誰もが必要な時に教材を取り出して片付けられるようにした。教室の壁は大きな黒板で覆った。子どもたちが黒板を自由に使って考えを交換し、教え合えるようにした。
学校を「生と学びの共同体」と考えるペーターゼンには、伝統的な学校の教室があたかも軍隊の兵舎か工場のように見えていた。長い廊下に番号の付いた同じ形の教室が並ぶ様子や教壇と向かい合った子どもの机の配置を疑問視し、教師の権威を象徴していると批判した。
オランダでは、学校舎は自治体が提供する。学校の教室デザインも、教員の要求を大きく受け入れながら決める。そのため、イエナプラン校は、どの学校の校舎や校庭にも、人間が生きるための場、ヒューマンスペースとしての工夫が凝らされている。
何より目立つのは、教室の内装が動植物などのテーマに応じて工夫されていることだ。教室に教壇はなく、小グループで学ぶためのテーブルとスペースをそろえている。全ての子どもたちがいつでもすぐに丸くなって、座れる場所が確保されている。
子どもたちは、個々の取り組みや遊びでも、それぞれふさわしい場を選び、学んでいる。移動先は、教室の片隅のソファ、廊下や踊り場のテーブル、教室内に作られた中2階のようなロフトなど。大人が気分に応じて家庭内の好きな場所を選び移動する感じだ。
子どもたちの動きは自然だ。教師に「縛られている」感じもしない。「それぞれの行動は大人に監視されるものではない、自分で責任を持つもの」という指導も受けている。
校舎も校庭も雑然とはしていない。目的や機能別によく整理されている。子どもたちが誰にも邪魔されずに深く思考したり、一人で何かに取り組んだりする場所もある。
スクール・カフェも、イエナプランのアイデアだ。カフェのような場所を校舎内に設置。保護者が子どもの登校や下校時にコーヒーを飲みながら、教員と気楽に話し合えるようにしている。
学習空間の変化は子どもたちの意識を変える。兵舎のような学習環境では、個性が見えない人間集団をつくってしまう。リビングルームのような人間味がある学習環境は、人の個性を浮き立たせ、自主的な活動の力を高める。