校長としての心構え(1) 話を聞くことの大切さ 教職員とのコミュニケーション

元東京都立西高等学校長 石井 杉生

■改革のスピード

このシリーズの手始めに、校長の心構えとして大切なことをいくつかお話ししたい。今回は「話を聞くことの大切さ―教職員とのコミュニケーションの大切さ」について考えてみよう。

以前、東京都の校長選考で、民間企業の経営論の一部を読ませ、学校経営にどのように活用できるかという論文を書かせていた時期があった。ニューパブリックマネジメント(民間の経営手法を公的分野に応用し、業務の質や効率性を高めようとする考え方)の最盛期であった。

そのころ読んだ、ある経営学の本に、「社員の半分以上が賛成するような提案はもはや古い提案で、採用するに値しない。2~3割の社員が賛成するような提案こそ実施する価値がある」と書いてあった。いまでも、多くの経営者が、事業が成功するための条件として改革のスピードを挙げる。では学校という組織はどうであろうか。

■校長のリーダーシップ

少し前、校長のリーダーシップを阻害するものとして職員会議があった。校長が新しいことを始めようと、職員会議でいろいろ提案しても、なかなか賛同が得られず、結果として、提案が流されてしまうことが多かった。職員会議が実質的な最高議決機関となっていた時期である。

2000年の学校教育法施行規則の一部改正で第48条に「小学校には、設置者の定めるところにより、校長の職務の円滑な執行に資するため、職員会議を置くことができる。2 職員会議は、校長が主宰する」(中・高にも準用)と定められた。これにより、職員会議は補助機関であると明文化された。東京都教育委員会は職員会議における教員の採決も禁止した。

この一連の流れにより、校長の職務権限が実質的に確立し、リーダーシップが発揮しやすい環境が整ったと言ってよい。

■コミュニケーションの大切さ

これには落とし穴があった。教職員は、校長の提案に対して自分たちの意見を表明しなくなっていったのである。校長も、以前と比べると自分の提案を教員に丁寧に説明しなくなったように思う。教員の賛同を確認できなくても、確立された権限の中で校長が実施を決定できるからである。従前は、校長が職員会議に対して「言っても無駄」という思いを抱いていたが、今は逆に、教員が校長に「言っても無駄」と思うになってしまったようだ。

ある学校での話。校長はほとんど教員の賛同がない中で、土曜授業の実施を決定した。

結果として、土曜日に授業を実施する先生を確保するのにぎりぎりで、常に綱渡り状態が続いた。校長が退職して学校を去ると、土曜授業は見直され、結果として廃止になった。

校長としては、土曜授業の実施は、学校改革の一環として果敢な取り組みと考えていたかもしれないが、校内の教員にとっては、納得のいかない決定であったのではないだろうか。

「校長が代わると学校が変わる」という言葉があるが、これでは「校長が代わると学校が戻る」である。リバウンドは疲労感を増幅する。混乱のマイナスは教員だけでなく児童生徒にも及ぶ。そして、この根底にあるのは両者のコミュニケーションの欠落である。

学校は、どうも独断的なリーダーシップになじみにくい職場と言えよう。専門職集団がつくり出す協働的な雰囲気を尊ぶ場であり、そのために大切なのは、全員のコミュケーションの確保である。リーダーシップとコミュニケーションは対立する考え方でない。むしろ権限が強化されたときこそ、その権限にすがるのではなく、コミュケーションに基づいた、納得性ある経営が求められるのである。