公教育の私事化(1)「公教育」の原点

東京都教委特任教授 獨協大学非常勤講師 岩崎 充益

10歳の少女が父親からの虐待を受け死亡するという痛ましい事件が、千葉県野田市で起こりました。

この少女はアンケートに父親からの暴力をつづっていました。学校を信頼し、家庭の悩みを訴えたのです。ところが関係教育機関は、このアンケートのコピーを父親に渡しました。関係教育機関は、生命への畏敬と他人に対する洞察心が欠けていると言わざるを得ません。

新学習指導要領の全面実施が近づいています。予測できない未来に向け、未来からの使者である児童・生徒は歩き始めます。彼らが活躍する2030年ごろの社会は第4次産業革命の時代で、進化した人工知能が人間の職業を奪う可能性もあるといいます。ただ、そう遠くない将来なくなると考えられている職業の中に、小・中学校、幼稚園の先生は入っていません。

教育は人格を陶冶(とうや)します。人は教育を受けることにより生命への畏敬や他人への洞察心を身に付けます。こうした能力はAIにありません。

ルソーは著書『エミール』の中で「もっとも多く生きた人間は、最も多く年をかさねたものではなく、最も多く生を感じたものである」と語っています。生を感じるには理性の力が必要です。理性の力を身に付けるには、集団の中で自分自身が獲得した知識を闘わせる、「開かれた学問」が必要です。自分の部屋に閉じこもり、好きなことだけして過ごす「閉じた学問」では身に付きません。

「教えること」に特化した昨今の教育においては、教師の精神主義を否定する声が大きくなってきました。しかし、そのような教育はいずれAIに置き換えられるでしょう。 今の日本は新自由主義、市場原理主義に基づく教育を推進しています。日本の将来を考えるには、将来を支える児童・生徒を中心に考える必要があります。つまり、広義の教育を考えるということです。産業構造が大きく変化している今日、国民一人一人が自立し、各自が課題を見つけ、解決していく必要があります。

成熟社会と言われる今日、「公教育」の重要性が高まっています。ここでいう「公教育」とは、コンドルセの『公教育の原理』に述べられている概念を指します。まず「教育の自由」を確認します。この自由には学ぶ自由と教える自由があります。公教育は人民に対する社会の義務であると彼は主張しています。

国立、公立、私立の枠を超えた教育全体の概念をここでは「公教育」と定義します。


【プロフィール】

岩崎充益(いわさき・みつます)東京教育大学(現筑波大学)在学中に箱根駅伝でアンカーを走る。その後世界放浪、37カ国に滞在する。帰国後、獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業、米国コロンビア大学大学院で英語教授法の修士取得。横浜の私立山手学院高校、東京都立高校で英語を教え、都立高校校長などを経て現職。著書に『都立秋川高校 玉成寮のサムライたち』(パピルスあい)、『公教育の私事化―日本の教育のゆくえ』(東京図書出版)。