【校長としての心構え(4)】ガバナンス確立の大切さ その2

元東京都立西高等学校長 石井 杉生
この連載の一覧

組織の健全性を明らかに

自覚を促す研修に力を入れる

前回は、自校のガバナンスを確立する方法として、時と場所の管理者を明確にすることについて考えた。授業時間中であればこれらの管理は心配ないが、放課後は責任の所在がよく分からなかった。学校という職場、そして職務の性格上、教員の意識に頼る以外に方法がないように思えた。そこで自覚を促す研修に力を入れることにした。

服務事故防止研修

ちょうど人事部から、職員会議の一部の時間を使って服務事故防止研修を行うよう指導が入った。教育庁人事部からの資料もあったが、私自身が教育庁に在職した時代に取り扱った服務事故の事例を具体的に紹介した。

例えば、痴漢を疑われないように、混んだ電車では常に本を持っている事例、リズムを取るために肩にポンポン手を置いたらセクハラで訴えられた小学校の事例、1500円の本を万引して2千万円以上の退職金をなくした事例、戒告処分で再雇用審査が不合格になった事例など、一瞬の気の緩みが人生を狂わせてしまうような事例を多く取り上げた。間違っても参加者にそのような不幸な事態が起こることがないように話をする姿勢を明確に打ち出した。

服務事故の紹介は何となく暗い雰囲気になるので、できるだけ明るく話すよう心掛けた。管理職としては、服務事故を起こさないように指導すればそれで免責になること、あとは皆さんの自己責任になることを強調した。

悪いニュースが伝わっているか

もう一つ大切なのは、当たり前と言われてしまうが、いわゆる「報連相」の確立。特に悪いニュースがきちんと伝わっているかが大切だと判断した。「報告しなさい」と言うだけでなく、できれば、報告者が報告しなければならなくなるシステムがつくれないだろうかと考えた。

学校にとって悪いニュースは何か、と考えた結果、一番多いのが生徒のけがであった。週末の部活動で、特に試合などがあると多くなる。けがの程度にもよるが、遅くとも月曜日の朝までに報告が管理職に周知されている必要がある。

あるとき、面白い書類が事務室から回ってきた。週末の部活動でけがをした生徒を病院に連れて行った顧問の、タクシー代の請求である。公務員の移動は通常、公的交通機関を利用するが、生徒がけがをした場合には救急車やタクシーが使われる。

救急車の場合でも、顧問が病院から試合会場まで急いで戻る必要があればタクシーが使われる。タクシー代の支出にはその理由書が必要となる。このタクシー代請求書と事故報告書の一体化を思いついた。この書類を月曜日の朝までに、校長、副校長、朝の電話担当にコピーして渡すようにした。するとどうなったか。

週末の部活動でけがをして病院に搬送されると、多くの場合、応急処置をされる程度で、月曜日に自宅近くの医者に行くよう勧められる。その場合は学校を欠席するか遅刻することになるので、保護者が学校に、その連絡をしてくる。

電話を受ける担当者が、土曜日のけがの事実を知っていて、保護者に「◯◯君は、土曜日の試合でけがをしたそうですね。お大事に。病院に行くことは担任に伝えておきます」と答えたらどうだろう。親にしてみると、学校が自分の子供のけがについて知っていてくれるのは、決して嫌ではない。むしろ、うれしいと感じるだろう。ここで、親に「安心して病院を受診してください」という旨の連絡ができれば、けがというマイナス事件をプラスに変える一つの大きな機会となる。

このように悪いニュースであっても、それが組織の中に伝わっていることが分かると、組織の健全性が明らかになり、安心できると思う。

この連載の一覧