「司法面接」子供から正確な証言を引き出す技術(3)聴取における子供側の問題

立命館大学教授 仲 真紀子

事実の聴取を困難にする問題は、子供側にもある。何が起きたか、何があったかを明らかにするには、「いつ、どこで、誰が、何を、どうした」情報の収集が必要である。だが、子供にとっては、これらの報告を自発的に行うことは容易ではない。 前回例に挙げた「鍋が床に落ちた」ケースのような体験の記憶は「エピソード記憶」と呼ばれ、「覚えている」「思い出す」という感覚と関わっている。これは、「給食の鍋は大きい」などの知識(意味記憶=「知っている」という感覚と関わる)とは区別される記憶である。エピソード記憶は発生、成長に時間が掛かり、時間の経過とともに記憶の減衰や変遷、汚染も生じやすい。 出来事を思い出すということは、目の前にその情景を思い起こすことでもある。比較的特定が容易な情報――「誰が」「どこで」「どうした」は相対的に報告が出やすい。対して、「いつ」「なぜ」「どのような気持ち」には状況を客観的に把握する力、自分の心をモニターしたりコントロールしたりする力(メタ認知)が必要であり、報告が困難になる。
被暗示性のイメージ
こういった難しさに加えて、「被暗示性」という問題もある。被暗示性とは、他者、他所から得た情報をあたかも自分が体験したように思えてきてしまう傾向性である。 「鍋が落ちた」例を振り返ってみよう。給食の準備中、取っ手が外れて鍋が床に落ち、おかずがこぼれたとする。その場に駆け付けたものの、こぼれた瞬間を見ていない教員は、思わず「手が滑ったの」「重かったから落としたのね」と先回りして尋ねてしまうかもしれない。こういった具体的な内容を提供された子供は、知らず知らずその内容を受け入れ「うん、重かったから手が滑った」などと答えるようになる。 被暗示性は、第一に認知発達の程度と関わっている。前述のメタ認知や情報源の理解(頭に浮かんだ情報が、どの情報源によるものか)が発達途上にある子供は、より年齢の高い子供や成人に比べ、被暗示性が高進しやすい。 第二の要因は、社会対人的な地位の格差である。権威者から「~だったのね」「~でしょう」と問われると、低い地位にある者はその情報を受け入れがちだ。親や教員は、社会的地位の低い子供にとって絶対的な存在である。大人の言葉は子供の被暗示性を高める要因になる。