公教育の私事化(2)米国「公教育」の危機

東京都教委特任教授 獨協大学非常勤講師 岩崎 充益

昨年の秋、大学生を連れ母校である米国・コロンビア大学を訪問しました。同学の学生とディベートするためです。引率した日本の学生は一様に英語の運用能力が高く、日常会話で不自由しませんでした。

ところが、ディベートがある程度進行すると、コロンビアの学生に対し反論できなくなったのです。複数の視点から論理的に分析し、最適解を導きだす「クリティカル・シンキング」の力が不足している、日本の学生の特徴の一端を示す出来事でした。

滞米中、さまざまな人から米国の教育事情を学びました。米国先端政策研究所のグレンS.フクシマ氏とは教育問題を話し合い、ワシントンD.C.ではGlobalize DC(日本語を学ぶ公立学生のための団体)のサリー・シュワルツ氏から、特別認可を受けた公立学校・チャータースクールの現状を学びました。

2015年12月10日、オバマ大統領(当時)はNo Child Left Behind(1人の落ちこぼれも出さない)法に替え、The Every Student Succeed Act(全ての生徒が成功する)法に署名、成立しました。
州政府の裁量権を拡大した新法の下では、学力テストの成績や高校の卒業率、教員の業務への取り組み状況、上級学校への進学状況など、各州が教育成果に関する独自の長期目標を設定し、学校を立て直すための方策も各州に委ねられます。

また、全米学力テストの数値だけで一律に学校のランク付けをせず、付加価値(value-added)の概念を取り入れました。この概念とは、ハーバード大学のチェティ教授が約100万人もの小・中学生のデータと過去20年分の納税者記録のデータを用いて明らかにしたもので、教員、学校などさまざまな集団の成長幅を捉えるのに、付加価値が極めてバイアスの少ないものであると証明したのです。

トランプ政権以降、全てが変わりました。教育長官に起用されたベッツィ・デヴォス氏は、チャータースクールに税金を投入し、競争を激化させました。数値によるエビデンスを基に、付加価値を有していないと判断されたチャータースクールは廃校になり、教職員も退職に追い込まれます。公立学校の水準向上や、公平な教育選択の機会を目的に進められたこれらの施策も、チャータースクール間で格差が進み、期待された効果は上げていないのが現状です。

成功している数少ないチャータースクールである、ワシントン州のBenjamin Banneker Academic High SchoolやWashington Latin Public Charter Schoolの生徒たちは、異口同音にハーバード大学などアイビーリーグを目指すと言っていました。一方でニューヨークの下町では、われわれの乗ったバスに物を投げつけてきた少年たちがいました。米国の公教育が危機に直面している、そう実感せずにいられませんでした。