公教育の私事化(4)「福祉」としての公教育

東京都教委特任教授 獨協大学非常勤講師 岩崎 充益

1984年に当時の中曽根首相が直属の諮問機関として設置した臨時教育審議会(臨教審)は、国家や社会の発展に資する教育から成熟化・情報化・国際化へ向けて、つまり21世紀の教育への大きな転換を狙いとしていた。

改革の方向として打ち出したのは、それまでの画一的な教育からの脱却を図る個性重視の原則である。この原則に基づき、▽高等教育の多様化▽初等中等教育の充実▽教育行政の改革――などの施策が講じられた。

新保守主義を標榜した中曽根政権は、日本の教育にも市場競争の原理を導入した。教育の自由化路線が進められ、学校を単位とする経営運動がさかんになり、学校の差異化が進んでいった。

米国の経営学者ピーター・ドラッカーは次のような言葉を残している。知識は資金より容易に移動する。万人に知識習得の機会が与えられる環境であれば、努力によって社会の上層への移動が可能になり、高度な競争社会が出現する――。その予測どおり、世界中の優秀な知は国境を越えていとも簡単に移動している。米国型大衆教育モデルでもある知識の市場化が現実となった。

教育が商品化すると、消費者である保護者や児童・生徒は、進学実績がより高い学校へ集中する。そのため、経営者は受験に特化した効果的な教育システムの提供を進めようとする。私立学校は、進学指導、生徒指導、部活動などを看板として掲げるようになり、市場原理主義の流れの中で、公教育は私事化していった。

2016年「国民生活基礎調査の概況」によると、子供の貧困率は前回(13年)の16.3%から13.9%に減少した。それでも7人に1人が貧困で苦しんでいる。ひとり親世帯の貧困率は50.8%で、これは先進諸国の中でも突出して高い値である。内閣府の調査(17年度)では、全世帯平均の高校進学率が99.0%なのに対して、生活保護世帯では93.6%にとどまっている。

貧困層の子供たちは、前期中等教育で差別化される。義務教育である中学を卒業した子供のほぼ全員が高校へと進学していく中、生活保護世帯には進学を諦める子供がいるという実態が、この数字に表れている。

国にとって、教育とは未来への投資である。国が国民全体の教育に関与しなければならない。その意味で、公教育は「福祉」の側面を備えておく必要がある。