公教育の私事化(6)個性化教育への道

東京都教委特任教授 獨協大学非常勤講師 岩崎 充益

OECDのCERI教育プログラム(2006)には「公教育は個性化教育(personalisation)に向かう」と書かれている。その中で、フィンランドのサナ・ヤルベラ教授は個性化(personalisation)を個別化(indivisualisation)と区別して論述している。

個性化教育は個々の児童・生徒を大切にする教育政策と実践へのアプローチであり、動機付けの促進、能力に応じた学びにより公平性を担保すると述べている。CERI(教育研究革新センター)が定義するこの「個性化教育」は、一人一人の多様な学びに応じた形成的な評価を推進する、新学習指導要領の目指す教育と一致する。

一方、「個別化教育」は市場原理主義の下、支払い能力のある人のニーズに応じた教育を提供する。市場原理が教育現場に適用され、格差を助長する。個別化教育は私事化へとつながる。

社会教育学者の苅谷剛彦氏は個性化を求める「個人化」と、新自由主義的な「選択の主体」としての「個人化」と区別して定義している。前者は「ゆとり」教育に代表される個性尊重の教育をいい、後者は教育バウチャー(※)、学校選択制などを提唱する教育改革である。

「個」の確立を目指す教育については、デンマークから多くを学ぶことができる。前デンマーク大使の佐野利男氏から同国の教育について話を聞いた。

幼児教育から義務教育まで日本の教育と大きく異なる。中学2年まで学科試験はないが、小学6年生からディベートの訓練が課せられる。子供は「社会は自分たちを求めている。だから早く独立しなければならない」という人生訓を学ぶ。また、デンマークには「引きこもり」という社会現象はない。一人一人の「個」を尊重した教育の中で、自尊心が涵養(かんよう)されるからだ。

義務教育終了後は、約50%が職業専門学校、あるいは高等教育コースに進学し、40%は普通高校、10%は直接社会に出る。大学へは約30%が進学する。大学入試はなく、卒業時の試験の成績(平均点)が生徒の総合成績となり、大学入試の資料となる。公平性と客観性を確保するため、教育省が指示・監督している。

大江健三郎は「知識人とは個人の声で語る。個人のスケールで、しかしその個人の全力を挙げて、社会における自分の責任を取ろうとする普遍的な原理に立つ人間」と述べている。「個」を持った人材を育成することこそ、公教育の進むべき道である。


※教育バウチャー: 子供がいる世帯を対象にバウチャー(現金引き換え券)を交付し、保護者や子供はバウチャーと引き替えにサービス提供者(学校)と契約を結び、教育を受けることができる制度