【校長としての心構え(6)】数字に強くなることの大切さ その2

元東京都立西高等学校長 石井 杉生
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福利厚生に関わる相談に乗れる力を

教員や学校に関する数値を考えてみる

前回は生徒に関する数値を取り上げたが、今回は教員や学校に関する数値を考える。

営利企業であれば、販売数や売上高など核となる数値はおのずから決まってくるのに対し、公立学校では核となる数値を何とするかは意見の分かれるところであろう。

むしろ何を核となる数値として示すかで、経営方針を示すことにもつながる。印象深い数値をいくつか紹介する。

シビアな事実を教えてくれる学校運営の数値

教員はコスト意識に欠ける部分がある。それは、一方で労を惜しまず指導する姿勢につながるが、他方では、無駄遣いや責任感の不足につながったりもする。

都立学校の学校要覧には、毎年度の運営コストを掲載するよう指示があるが、この数値を意識している学校は意外と少ない。

例えば、西高の場合、一年間に必要な学校運営のコスト総額は、約8億円である。この数値を口にすると多くの先生方は驚く。これには施設・設備の減価償却費も職員の退職引当金も含まれている。そのうち人件費は約7億円である。

当時、私立高校の年間平均納付金が約100万円であった。西高には千人の生徒がいるので、もし私立なら年間10億円の収入があり、支出は8億円なので、2億円を改築費用積立金にできる。

さらに入学試験の受験料を加えれば、改築費用積立金の額も上積みされる。それでも土地購入費が払えるかは疑問である。そう考えると学校経営も楽ではない。

もっと露骨に授業の料金について考えてみる。授業以外の特別活動に2割の負担を割くとすると、年間の授業料は約80万円となる。それを、西高の年間授業時数約1050時間で割ると、1時間当たり750円程度となる。一クラス40人とすると、1時間当たり合計3万円である。

自分の授業が1時間3万円の価値があるかどうか、あるいは、750円を払っても受けたくなるような授業であるか、シビアに問い直してみる必要があろう。

意外と知らない福利厚生関係の数値

ほとんどの教員は自分の給料明細書を正確には読み取れない。教育職給料表がどこに示されているか知らず、その表から計算した来年の自分の給料額を予測できない。退職金がいくらもらえ、年金もいくらでいつからもらえるのか、自信を持って言える人はほとんどいない。退職後夫婦二人で生活していくのに、一般に月額いくら必要と言われているかも知らない。

当時、共済年金は60歳からもらえたが、その後65歳までもらえなくなること、その間、夫婦二人で月額30万弱必要なこと、もし、60歳以降職を持たないと、約55カ月分の退職金(当時)のうち、5年間で6割程度を使ってしまうことなどを説明した。

もし、戒告以上の処分を受けると、当時の都教育委員会は60歳以上の再雇用を認めなかったため、その後何もしなければ73歳から74歳で退職金は底をついてしまう。万一懲戒免職にでもなると、退職金は支給されず、教員も続けられないので、すぐにお金に困ってしまうことになる。

成績昇給をしても、全員に定期昇給があり、昇給通知書が配られるため、自分が成績昇給を受けたかどうか分からない教員が多い。もちろん、いくら増えたのかはほとんどの教員が知らない。

金の亡者になってほしくはないが、労働の対価が給料である以上、給料について考えることは、ある意味では働く意味を考えることであり、貴重な機会でもある。

まして教職員の労働意欲を喚起する立場の管理職であれば、教員の給料やその後の年金など、福利厚生に関わる相談に乗れる力を付けることは必須事項といえよう。

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