公教育の私事化(7)公正な競争社会

東京都教委特任教授 獨協大学非常勤講師 岩崎 充益

公教育の危機はその私事化に端を発する。私事化は新自由主義経済などによる公共性の衰退に起因すると考える。公教育を支える公共性が混乱状態にあるため、その危機を救う道筋が容易に見つからないのが現状である。

仏の社会学者ピエール・ブルデューは「文化資本」という言葉を使って、階層構造の再生産について論じている。学歴などの文化資本を持った保護者の下に生まれた子は、その資本が受け継がれ進学や就職に有利に働くが、そうした資本のない(多くは貧困世帯にある)子は不利である。

適切な教育環境とは、生まれたとき、つまり人生の出発点から差が付かない平等な環境である。経済的、文化資本に乏しい環境にあっても、頑張れば夢を実現できる社会である。

米国の哲学者ジョン・デューイは「民主主義とは多様な人々が共に生きる方法」と定義した。こうした考えの中心にあるのが公教育だが、新自由主義経済下の競争がそれを揺るがせている。競争は市場経済の原理である。やみくもに否定するのではなく、児童・生徒の競争能力は大切に育て、公正な競争社会を希求する。正当な評価は、公正な競争の下で得られるものだからだ。

公正な競争社会とは、互いに学び合う中から競争の楽しさを体験できる社会である。相手に勝つことだけを意識すると、負けることに不安を感じて競争をやめる。

これからの教育は協調的な学び(co-agency)が求められる。相手の意見をしっかり聞き、自分の意見を誤解なきよう伝え、仲間同士意見を戦わせる学びである。

Learner Agency(主体的な学び)という言葉がある。言葉の定義は多岐にわたるため限られた紙幅では全てを説明できないが、一部紹介する。「仲間同士が協調して学び合う中で、お互い高め合い、自分自身の変容に気付くこと」である。メタ認知を刺激する学びである。

この学びを実現するには、一斉授業から個性化教育へ移行する必要がある。個性化教育とは「個」を尊重する教育である。「個」の創造性を育み、独自性を尊重した教育である。

評価方法も「総括的評価」から「形成的評価」へ、あるいは「対話型評価」や米ワシントン州・エバーグリーン州立大学で実践されている「談話形式プロセス評価」に転ずる。

また、自分自身の変容を記録する「ポートフォリオ評価」、形成的評価を数値化する「ルーブリック評価」などの導入が推奨される。公正な競争により公教育は活性化する。