公教育の私事化(10)教育における不易と流行

東京都教委特任教授 獨協大学非常勤講師 岩崎 充益

2018年7月、経済協力開発機構(OECD)のアンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長は林芳正文科相(当時)に、日本の教育政策に関するレビューを手渡した。レビューは、日本の教育制度が成功している大きな特徴として、全人的な学びを効果的に行っている点を挙げている。

俳諧に「不易流行」という理念がある。全人教育はこの不易に当たるものだが、現在、日本の教育は流行に重きをおいた改革が進行している。知力だけでなく人間性の育成も目指す全人教育は、その守備範囲の広さゆえ教える側に負担を強いる。働き方改革などを受け、日本の教員は「教えること」に特化する方向へ向かっている。

著者はかつて舎監長として高校の全寮制教育に携わった経験がある。現在、いじめに関するニュースが連日のように報じられているが、寮では中学校時代いじめに遭った子、逆にいじめてきた子も一緒に生活する。

寮生活においては、いじめはすぐに発覚する。いじめ防止には、それを絶対に許さない社会の目が必要である。生徒らは、家族以外の人間と寝食を共にする生活を通じて、感情を「抑制」するすべを身に付け、変貌していく。

そうした彼らの姿を目の当たりにする教員もまた、生徒と共に成長を遂げていく。著者が勤務した学校では、新規採用教員の多くが24時間教育に従事した。現在、公立の全寮制学校を創設するには学校教育法という壁を越えなければならないが、それ以上に難しいのは意欲ある教員の確保であろう。十分な教育予算も必要である。

公教育の私事化に伴い、教育の成果を数値で測る時代になった。しかし裏を返せば、数値化できない学力は判断基準から外れてしまう。全人教育で育もうとしているものは、この数値化できない学力ではなかったか。また、有能な人材が教育界から離れていきつつある現状も問題だ。19年度、公立学校の教員採用選考の平均倍率は4.0で、6年連続で低下している。

日本の教育界は解決すべき問題が山積している。子供の貧困対策、優秀な教員を集めるための待遇改善、教育環境整備に向けた1クラス当たりの生徒数削減などはすぐにでも進めるべきだろう。それにはどうしても「流行」に重きを置いた改革になるが、政治、経済、思想、哲学などが混沌(こんとん)とするこの時代、いま一度教育における「不易」を見つめ直す必要があるのではないか。公教育が目的とする、有能な国民―個人の意思と意見を持ち公に表明できる―をつくるためにも。

(おわり)

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